2000/04/05
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表紙

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カメラ雑文

[330] 2002年01月20日(日)
「映像関係者の知識を問う」

我輩が好きな映画の1つに「カプリコン・1(1977年作品)」というのがある。
最近、DVDでも「カプリコン・1」が発売されたので、そちらも入手して時々観たりしている。
火星有人宇宙飛行計画が、打上げ直前で生命維持装置に不具合が発見され、やむなく地上の秘密スタジオでの撮影によって火星着陸をデッチ上げるという内容。

火星表面を再現したスタジオで、3人の飛行士の動きはスロー処理によって本当に引力の小さな星で活動しているかのように演出された。
だがしかし、宇宙からやってくるはずの電波信号が、なぜか非常に近い場所から発せられている。そのことをNASAコントロールセンターのオペレータが気付く。そのオペレータは上司にそのことを報告するが、なぜか上司は「あの機器は故障中だ」と全く取り合わない。不信感を持ったオペレータは自宅で手計算で確認するのだが、それもやはり同じ結果に。
そのことを友人の記者に話したが、直後そのオペレータは行方不明となり、そればかりかそのオペレータが存在していたという事実さえ抹消されていたのだ・・・。


先週と今週、この話の月バージョンとも言うべき番組が放映された。
「アメリカのアポロ計画はデッチ上げであり、本当は月面着陸は地上で撮られた」というのである。その番組は、アメリカで放映された番組の内容を基にしているという。その中でいくつかの疑問点が挙げられ、それを根拠に「月面着陸はデッチ上げである」と結論付けている。
我輩はこういう話題が好きなほうであるから、期待を膨らませて番組を観た。そして、すぐに落胆した。

月面着陸がデッチ上げかそうでないかはここで議論する意味は無いが、ただこの番組の挙げる疑問点のうち、写真・動画を根拠にしたものについて考えてみようと思う。


<星条旗が風になびいている>
月面に立てた星条旗が、真空であるはずの月面で風になびいているという。
こういう根拠は完璧に「見た目での判断」でしかない。我輩が見たところ、砂っぽい月面にしっかりとネジ込んで旗を立てるために、軸をグリグリと回しているようだ。その回転が旗を揺らしている。少なくとも、我輩には手首の動きがそう見える。
ちなみに、月面用の旗は真空中で旗を立てるために幟(のぼり)と同じく横にも棒が通っている。


<影が平行ではない>
月面上に出来る複数の影は太陽光によるものであれば平行なはずなのに、写真に写っている2つの影は平行ではないという。これは、光源が他にもあった証拠なのだそうだ。
だが、写真や絵画をやっている者にとって、遠近感というものは馴染みの深い概念であり、写真では「パースペクティブ」、絵画では「遠近法」として知られる。要するに、近い物は大きく遠いものは小さくなるということである。
「写真」とは文字通り「真実を写す」。しかし、その真実を写真の表面上からのみ受け取るならば、せっかく写り込んだ真実を見落とし歪めてしまう。 この場合、「平行線とは写真上でも必ず平行に表現される」という誤った前提に基づいている。これがそもそもの間違いである。
「平行線は、正対して初めて平行に見える」。これこそが、写真としての真実である。

問題とされている映像と、その風景を3Dで我輩が再現した画像との比較。撮影レンズは80mm標準レンズ(ハッセルブラッド用)での画角を想定した。光源は、もちろん無限遠光源にて設定。なお、左の画像では補助線が若干主観的に描かれているような気がする。月着陸船に当たっている光の様子を見ると、明らかに逆光気味なのだ。


<逆光でも明るく写っている>
月面で撮影された写真では、強い逆光で撮られたものも多い。そしてそれらの写真では、陰の部分が明るく写っているため、補助照明があったのだという。
だがこの場合も、写真的に言えばごく当たり前のことにしか思えない。
望遠鏡で月を観察した者なら解ると思うが、月面はかなり明るい。言うなれば地面にレフ板を置いているようなもの。注目すべきは、地面に落ちた「影」と、人物の「陰」である。
雑文「貧乏人のための商品撮影(第4段階)」に掲載した写真を見れば解ってもらえると思うが、下から当てるレフ照明は、陰を照らすが影は照らさない。だからこそ、影は真っ黒いままであるが、人物の陰は明るく照明されているということになる。何の矛盾も無い。

こちらを向いた飛行士のバイザーには、こちら側の様子が映っている。そこには何の照明装置も見あたらない。自分自身が地面に落とす影と月着陸船のみ。陰の明るさを指摘するような者が、なぜここに気付かない?


<倍速映像にすると自然な動きに見える>
ゆっくり緩慢に動くシーンでは、月の引力が小さいことを表現しているが、これを倍速再生すると、まるで地球上で撮影したかのように自然な動きになるという。
しかし倍速再生するということは、見かけ上重力加速度が大きく見えるということだから、別に不思議でも何でもなかろう。何が問題なのか?
倍速再生でどういうふうになれば納得するのかを逆に問いたい。


<写真に写し込まれた十字線が隠れている箇所がある>
宇宙で撮影されるハッセルブラッドによる写真には、10ミリの幅で25個のレゾークロスと呼ばれる十字線が写し込まれる。この十字線は常に画面に写り込んでいるはずなのだが、なぜか被写体の背後に隠れているものがあるらしい。これは、写真を合成した痕跡だという。
しかし、レゾークロスは極めて細い線であるため、背景が強いハイライトであれば飛んでしまうと思われる。現に、番組で紹介される「被写体に隠された十字線」を見ると、いずれも隠しているのはハイライトの部分となっている。これがもしグレーな部分で隠されているならば納得も出来ようが、これでは何とも判断出来ない。
そもそも番組ではレゾークロスのことを「カメラのフィルターに付けられた模様だと思われる」などとトボケたことを言っているが、フィルターの模様など写真にハッキリ写せないことは写真をやる我々には常識である。そんな単純なことすら理解しないということは、鋭い視点で写真の矛盾点を指摘出来ないということを意味する。つまり、そこから説得力など微塵も感じない。


以上、番組が指摘することについて考えてみたが、映像に関する限り矛盾するところは1つも無い。しかし、これを以て「やはり月面着陸は歴史的事実だ」などと言うつもりも無い。映像の検証と事実関係とはまた別の話である。映像の矛盾点は判断材料としての状況証拠に過ぎぬ。そこから断言出来る事実は極めて限られている。

それにしても情けないのが映像関係者。
番組では、映像のプロを自称する人間がコメントをしていたが、映像のプロというのはどこがどのようにプロなのか解らぬ。その人間がカメラや写真レンズを設計したようにも見えない。ただ単に「映像を扱う業者」と言うだけではないのか。まあ、それで生計を立てているのだから、確かにプロには違いないが。

しかし、以前にも書いたように、画像の理解にはハードに対する理解は欠かせない。それに加えて自然法則についての理解も必要。写真を趣味としていれば、最低限のものは自然と身に付く。いや、必要とされる。
何が自然で何が不自然か、それすら解らぬ者がCG画像を作る時代である。それでプロを自称するのだから、ますますプロの言葉に信憑性が無くなる。

映像関係者は、普段映像を扱っている関係上、映像のことなら分からないことはないと思い込んでいる。それはあたかも、日頃から大量の現金を取り扱う銀行員が自分が金持ちになった気分になるようなもの。
だが、根本を理解していないと、低級な番組しか作れない。最近の「コマーシャル前後で内容がオーバーラップする中身の薄い番組」が増えてきたことからも、そのことが伺い知れる。

映像関係者ども、頼むから頑張って少しは勉強してくれ。見ているこちらが恥ずかしくなる。


(2002.02.13追記)
「月着陸がウソである」という意見に対する反論のページをNASAが作っていたのを見付けた。英語なので詳しくは読めないが、少なくともレゾークロスの件と星条旗がはためく件について我輩と同じように考えているようだ。
しかし繰り返すが、これを以て「月着陸は真実だ」と主張するつもりも無い。ここではあくまで映像についての検証を行ったに過ぎぬ。