2000/04/05
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カメラ雑文

[725] 2011年05月30日(月)
「震災は現実に起こったことなのか」


我輩は、単なる情報としての知識があっても、それが実感を伴わない場合には「本当にそういうことがあるのだろうか?」と疑問に思うことがある。

例えば、地面が動いてズレる「断層」というものについて、実際にそれを目で見るまでは地面が動くなどということが実感出来なかった。
もちろん、学術的には疑いようのない現象で、写真からも断層面を見ることは出来る。しかし、実際に現場に出向いて自分の目で確認しないうちは、実感としてあまり心に響かない。
そういうわけで今年の1月に、有名な丹那断層の痕跡を辿った。

我輩が求めているのは、学術的な静かなる証拠ではない。実感を伴うビジュアルな証拠である。それは、ある種の"ショック"を呼び起こすものと言ったほうが良い。
だからこの時、断層によって地上の構造物が分断されるなど、映像的な痕跡を目の前にしてようやく断層の動きを実感することが出来た。

<丹那断層により横方向にズレた地上構造物>
丹那断層により横方向にズレた地上構造物
丹那断層により横方向にズレた地上構造物
[PENTAX 645N/45mm] 2011/01/15 09:05

また、その断層が長い距離を貫いていることも、現地に行って初めて実感した。
鳥居(1本残った支柱)と石段(右側が当時の石段)の位置がズレてしまった火雷神社などは、位置関係からも同じ断層が引き起こしたものであることがハッキリ分る。断層が起こす象徴的な事例として現場保存されていたおかげだ。
これにより、断層のスケールの大きさも感ずることが出来た。

<火雷神社>
火雷神社
[PENTAX 645N/45mm] 2011/01/15 09:05

さて、2011年3月11日に起こった東日本大震災では、東北地方の東部海岸地帯で大津波が押し寄せ、1万数千人もの死者が出たという。
そのことはテレビ報道やインターネットなどを情報源として知ってはいるが、今ひとつ実感が湧かない。何しろ、テレビのスイッチを切れば、何の不自由も無い日常生活へ頭が切り替わるからだ。

確かに、我輩は地震当日、職場で被災して帰宅難民となってしまった。地震の影響はそれなりにあったとも言える。
だが実質的には生命の危険に晒されること無く、また目の前で人が負傷したりすることも無かったわけである。直接的な現象としては、「電車が動かなかったので帰宅出来なかった」ということでしかない。

そのため、実感を得るには被害の大きな現場へ行ってみれば話が早いのだろうが、被災地では震災後1ヶ月経っても混乱が続いているとのこと。そんな状況での見物など不謹慎極まりない。
そもそも、福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の漏洩が続き、東北地方へ行くことは危険な行為でもある。

ところがテレビ番組(噂の東京マガジン)を観ていると、銚子の近くにある神栖(かみす)市では液状化現象が激しく、住宅が傾いて住めなくなったところもあるという事例を知った。神栖市は、自宅からクルマで2時間ほどと比較的近いので驚いた。
インターネットで調べたところ、そこは元々大きな沼があった場所のようだ。それゆえ、地盤が締まっておらず液状化を起こし易い状況だったらしい。
何よりショックを受けたのは、非情にも新築の住宅が大きく傾いている映像であった。我が家がこのような状態になった時のことを想像し、身震いしてしまう。

液状化の現象については、以前、つくば市にある博物館「地質標本館」で実験をやったことがある。
ペットボトルに入った砂と水を振った後、砂を静かに沈殿させ、ちょっと衝撃を与えると水が砂の表面から噴出すというもの。
実験自体は興味深いものだったが、これが現実のスケールで起こることが実感出来ないままであった。

そこで今回、液状化がどのような規模で起こっているのか、実際に目で見て確認したいと思った。
住宅が被害を受けて傾いているため、少々不謹慎かと思われたが、死者が出ていない被害なので、個人的な地質調査として許してもらいたい。
せめて当サイトで状況を広く伝えることにより、復旧を後押しする動きが加速すれば・・・という効果も期待する。
(実は取材後、我輩のブログにて神栖市の状況を紹介していたのだが、Yahoo!の地震関連情報からリンクされてアクセス数が一時的に跳ね上がり、液状化被災に対する関心の高さを知った次第である。)

ちょうど、思い立った週の金曜日に帰休(給料の出ない休暇)を取ることになっていたので、この日に神栖市へ行くことにした。
記録は基本的に645判リバーサルとし、「PENTAX 645N」を用いる。同時に、時間記録のためにデジタルカメラ「LUMIX GF-1」を使った。

神栖市入りしてまず、道路脇の電柱が軒並み傾いているのが見えてきた。また、歩道もかなり破損しているところがあり、地面が盛り上がっているところもある。
それにしても、砂ボコリが多い。

手近な量販店を見付け、その広い駐車場にクルマを停めた。
トランクに入れてある折畳み自転車を使い、周辺をきめ細かく調査する計画である。道が分らないので、登山の時に利用している携帯型GPS「GARMIN」も活用する。

自転車を組み立てながら背後を見ると、駐車場の一部が損壊し、側溝のフタが持ち上げられているのが見えた。液状化であろうか、砂が噴出したような跡も見られる。

<駐車場の損壊>
駐車場の損壊
[PENTAX 645N/45mm] 2011/04/15 15:15

調査を急がなければ・・・と思っていたところ、折畳み自転車のサドル固定用の締め付けネジが「ピンッ」と飛んだ。
おかしいな、と思いながらも再びネジを締めたところ、やはり同じようにネジが飛ぶ。よくよく見ると、ネジ山が潰れてバカになっているではないか。どうやら、これまで中途半端な締め方で使っていたらしく、応力が偏ってネジが破壊されたようだ。
これは困った・・・。
ふと見ると、クルマを停めた店は偶然にもホームセンターであった。
試しに店内に入ってみると、色々な径のネジが置いてあり、自転車に使えそうなものを選んでみた。ペンチもそこで入手。
ついでにトイレに行こうと思ったが、なぜか使用禁止になっていたので諦めた。

<バカになったネジと調達したネジ>
バカになったネジと調達したネジ
[LUMIX GF-1/14-42mm] 2011/04/15 13:31

自転車のほうは、苦戦しながらも何とか応急処置を施し、出動可能な状態になった。
我輩はカメラとフィルムをカバンに入れ、折畳み自転車に乗って駐車場を出発した。
GPSの測位に時間がかかるため、最初は当てずっぽうに方向を決めたのだが、それが間違っていたようで引換えす羽目になった。

<携帯GPS「GARMIN」>
携帯GPS「GARMIN」
[LUMIX GF-1/14-42mm] 2011/04/15 13:46

改めて目的地を目指したのだが、畑地帯に入るとすぐに、奇妙な光景が目に付いた。
「これが現実の液状化現象なのか・・・。」
それは乾燥して固まってはいたが、その形は明らかに液体が噴き上がったものであった。

<噴き上がった跡>
噴き上がった跡
[PENTAX 645N/45mm] 2011/04/15 14:08

まずフィルムで撮影し、次にデジタルカメラで後追い撮影をする。
あくまで記録撮影であるため、中判と言えどもフルオート及びズームレンズの組合せは、迅速な撮影として大変役に立つ。

さて、ある所では畑一面に砂が噴出していたところがあり、その規模に度肝を抜かれた。
こんなことが、人の住んでいる場所で起こるということが、ショックであった。そしてそのショックを以って、現実に起こった現象なのだと実感させられた。
やはり、現場を訪れた意味は大きい。

<噴き上がった跡>
噴き上がった跡
[PENTAX 645N/45mm] 2011/04/15 14:17

やがて、住宅が傾いているところに行き当たった。
見ると、明らかに新築であることが判る。所有者の心中を察するとショックは計り知れぬものであろう。部外者が写真を撮るのは本当に申し訳ないが、後世に記録を伝えるため、そして復旧に繋げるため、ここはしっかりとシャッターを切るべきだと自らに言い聞かせた。

<傾いた新築住宅>
傾いた新築住宅
[PENTAX 645N/45mm] 2011/04/15 14:06

自転車で走っていると、舗装していない道も多く、砂利道でガンガンと突き上げ尻が痛くなる。
見ると、その衝撃のせいかサドルが低くなっていた。応急措置のネジ締めも不十分だったようだが、ペンチはクルマに置いてきてしまったため、ネジ締めも不十分なまま、時々サドルを上げ直して対処するしかない。
それにしても砂ボコリが酷く、目にゴミが入る。よく見れば、液状化によって噴き上げられた細かい砂が乾燥して風に吹かれているせいだった。まるで砂漠化する街のようだ。

<まるで砂漠化しているかのよう>
まるで砂漠化しているかのよう
[PENTAX 645N/45mm] 2011/04/15 14:14

途中、トイレに行きたくなり、コンビニエンスストアを見付けて入ったが、震災の影響で下水が使えずトイレは使用禁止になっていた。
そういうことならば、どこに行ってもトイレには入れない。
少々焦ったのだが、あと1時間くらいは大丈夫かと思う。クルマに戻ってトイレのある道の駅まで行けば何とかなろう。

しばらく走っていると、公園に行き着いた。
公園にはトイレがあり、ダメ元で行ってみたところ、トイレは特に使用禁止とはなっておらず、無事に用を足すことが出来た。

今回、傾き方が一番大きいと思われる住宅は次の写真のものである。

<最も大きな傾き>
最も大きな傾き
最も大きな傾き
[PENTAX 645N/45mm] 2011/04/15 14:23

これを見た時は、かなりの衝撃を受けた。
家がこれほどまでに傾くとは、報道では見たことはあっても、自分のいる風景で見たのは初めてであった。
「これが現実の風景とは・・・。」
我輩は、撮影後もしばらくこの光景に見入っていた。

調査撮影は1時間ちょっとで終了。
これは、調査が十分に行なわれたということではない。折畳み自転車が万全ではないこともあり、低いサドルで体力も消耗し、これ以上は無理だとギブアップしたのである。
だがそれでも、我輩自身が実感を以って震災の状況を知るには十分であった。

撮影したリバーサル写真については、今後、我輩自身が当時受けたショックを再度蘇らせるために使うほか、ウェブ上での注目により復旧に繋がるための材料となること、そして時代を経て、震災を知らぬ世代への資料として遺しておければと期待するものである。
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イラスト提供:シェト・プロダクション