2000/04/05
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表紙

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カメラ雑文

[720] 2011年03月03日(木)
「カワセミ撮影 (想い出編)」


「今川にカワセミがおるんやち(日本語訳:今川にカワセミがいるんだと)。」
中学生の頃、友人のオカチンがこう言ってきた。

「なしカワセミが今川とかにおるそかん(日本語訳:なぜカワセミが今川なんかにいるんだよ)。」
オカチンの情報に、我輩は反射的にそう言った。
「おるんやとしても相当上流のほうやろうっちゃ(日本語訳:いるんだとしても相当上流のほうだろうよ)。」

今川というのは、実家近くを流れる川で、中流〜下流域は護岸され、要所要所にコンクリート製の堰(せき)があり、あまり清流とは言えないような川である。
そんな今川に、人跡未踏未発見の川にしか生息していないはずの幻の鳥「カワセミ」がいようなどとはとても信じられなかった。

しかし、オカチンの話によれば、カワセミは我々が思っているほど幻の鳥などではなく、単に野鳥の1つに過ぎないとのこと。
にわかに信じ難かったが、土曜日の午後、学校から帰ってからオカチンとカメラを持って今川まで行ってみることにした。

我輩のカメラ機材としては、「Canon AE-1P」に「NewFD100-300mm F5.6」を装着。
当時は望遠ズームレンズがスポーツ的なイメージで売り出された頃で、一眼レフカメラを持っていた友人の中にも「NewFD70-210mm F4」を買った者がいたが、我輩はそれに対抗して100-300mmに手を出したわけである。
その友人は「F4のほうが明るいんやぞ」とは言っていたが、レンズ勝負は明るさの問題ではなく、焦点距離が長いほうが勝ちなのだ。

<100-300mmズームを装着したCanon AE-1P>
100-300mmズームを装着したCanon AE-1P

さて、今川に到着した我輩とオカチン。
橋の下へ降りて、川原の藪に囲まれた道を歩いた。途中、ヨレヨレになったエロ本などが棄ててあるのが目に入り、別の意味で人跡未踏な空気を感じた。

しばらくすると、堰が見えてきた。やはり思った通りカワセミの姿は無い。
我々は堰の上に腰を下ろし、しばらく様子を見ていた。そこから見える鳥と言えば、カラスかセキレイくらいであった。

どれくらい時間が経ったろうか、せっかくの望遠ズームレンズであるからセキレイでも撮っていようかと、カメラを構えてピントを合わせていた。
「カラー入れちょるそに白黒のセキレイ撮るとかのー(日本語訳:カラーフィルム入れてるのに白黒のセキレイを撮るなんてなー)。」
オカチンと冗談を言い合っていたその時、別の小さな鳥が飛んできて、対岸近くの草の枝にとまった。

「あれ、もしかしてカワセミやないそか?(日本語訳:あれはもしかしたらカワセミじゃないのか?)」
少し離れていたので半信半疑だった。

とりあえず望遠ズームをそちらに向け、300mmまでズームした。ピントを合わせるのがもどかしかったが、ファインダーの中でカワセミの姿がハッキリ見えた時は驚いた。
「カ、カワセミが来たっちゃ!(日本語訳:カ、カワセミが来たぞ!)」
そして、そのまま「パシャン」とシャッターを切って「キリキリカチャッ」とフィルムを巻き上げた。

<カ、カワセミが来たっちゃ!>
カ、カワセミが来たっちゃ!
[Canon AE-1P/NewFD100-300mm F5.6/ネガカラー] 1983年?

「AE-1P」のニュースプリットプリズムは、暗いレンズでも翳(かげ)らずクリアに見える。
だがいかんせん、300mmでも小さい、小さ過ぎる・・・。

我輩とオカチンは、岩場に降りてソロリソロリと近付いてみた。
川の流れが行く手を阻んでいるので近付くには限界がある。対岸に渡るには堰を歩いて行かねばならないが、それでは目立ってしまう。
とりあえず、少々近付いた地点でもう一枚撮影。

<少々近付いて撮影>
少々近付いて撮影
[Canon AE-1P/NewFD100-300mm F5.6/ネガカラー] 1983年?

カワセミは、しばらくすると飛び去ってしまった。
「ああ・・・、幻の鳥カワセミ・・・。」
我々は感動の余韻に浸りながら、飛んで行くカワセミを見送った。

−−−−−−−−−−−−−

翌日の日曜日、今度は我輩一人で今川に行ってみた。
堰の端に腰掛け、しばらく待っていると、近くを通る国鉄田川線のディーゼル列車が「カタタン、カタタン」と走って行くのが見えた。その音が過ぎると、川の流れの音だけが聞こえていた。

もう一度カワセミを見れるだろうか?
また見れれるのであれば、さらに近付いて、そして飛んでいるところも撮ってみたい。

1時間くらい待っていたろうか、期待に応えるかのようにカワセミが現れた。
カワセミは堰の中央辺りにとまり、そこで川面を見ているようだった。隠れるものが無いため我輩のことは見えているはずだが、どうやらあまり警戒している様子は無い。

そこで、カメラを片手に堰の上を這って進み、ある程度近付いたところであらためてカメラを構え、300mmにズームした。
昨日に比べて、かなり大きく見える。

人の気配を感じると、巣さえ放棄し二度と同じ場所には戻らないというような幻のイメージのあったカワセミだったが、意外にも挙動は普通の鳥のよう。
ここで「パシャン、キリキリカチャッ・・・パシャン、キリキリカチャッ」と2枚ほど撮影した。

<堰の上にて>
堰の上にて
[Canon AE-1P/NewFD100-300mm F5.6/ネガカラー] 1983年?

その後、カワセミが飛び立ち、あちこち移動したのだが、そのうち空の一点でホバリング(空中静止)したので、チャンスとばかりにカメラを向けて1枚撮った。もしホバリングでなければ、とても飛行中の様子など撮れなかったろう。
恐らく、上空から魚に狙いを定めるためにホバリングしていたのではないかと思う。

<ホバリング中>
ホバリング中
[Canon AE-1P/NewFD100-300mm F5.6/ネガカラー] 1983年?

結局、実家近くでカワセミを撮影したのは、この2日間のみであった。
継続して撮らなかった理由は特に無いが、撮り続ける理由も無かった。ある意味、この2回の撮影で満足したとも言えよう。
小遣いやお年玉を貯めてようやく手に入れた我輩自慢の100-300mm望遠ズームであっても、小さなカワセミ相手では、今後何度撮影しようが今回のような写真が精一杯だろうと悟った。

その後、高校卒業とともに故郷を離れたが、帰省時には今川の堰に寄ってみることもある。
特に、2007年にはその風景を撮ってみたりもしたが、風景は当時のままで、まるであの時代に戻ったような錯覚にとらわれた。

<当時そのままの風景が広がる2007年の今川の堰>
当時そのままの風景が広がる2007年の今川の堰
[RICOH GR-D] 2007/04/30 13:20

「まさか、あの時のカワセミがまた、我輩の頭上を飛び越えて堰にとまるのでは」と、そんなことさえ思ったりした・・・。
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イラスト提供:シェト・プロダクション