元々我輩は、撮影した写真に日付を入れる必要性を感じなかった。それは、自分の撮る写真が芸術を目指しているという変な勘違いをしていたことによる。
この勘違いは、「写真を趣味として向上するということは、すなわち芸術写真を目指すことである」という誤った前提があったために生じた。
いわば、我輩の青臭い思い込みである。
(参考:
雑文460「我輩は芸術家ではない」)
写真というのは、元々は絵画から派生した技術であった(※)。
そのため、写真の担う役割も絵画のそれと同じと言える。それはつまり、「記録」と「芸術」である。
(※当時はレンズやピンホールを通して暗室や暗箱の壁面に投影された像をなぞって描いた。
そうすると、目の前の風景の相似形が苦労無く得られた。それまでのように絵筆を物差し代わりにして一つずつ測りながら描く必要が無くなったのである。)
写真に「記録」という役割があるのであれば、"撮影日"や"撮影場所"などの情報は大変重要であることは明らか。反対に、このような情報の無い写真というのは、価値が半減すると言っても言い過ぎではない。
さて、日付情報のみであれば、最近の35mmカメラでは画面内に日付を写し込むことは機能の一つとして用意されている。
しかし、日付情報を画面内に写し込むことについては、次のような欠点もある(ポジ写真前提)。
これらの問題もあり、我輩は以前から「スライドマウント部に文字を印刷出来ないものか?」と考えていた。
印刷可能であれば、同じ情報であればあるほど一気に作業が進み効率が上がる。そして、何より文字が見易いため読み違えも少なくなる。
つまり、安定した情報記録が可能となるのだ。
しかし、印刷はどう考えても不可能。マウントの厚みが有りすぎる。しかもプラスチック製マウントに印字するために耐水性の印刷を考慮せねばならない。
いや、仮に印字可能だとしても、もし印字位置がズレた場合にインクがフィルムに付着するというリスクもある。
そこで考えたのが、デートスタンプだった。日付をセットしたスタンプをポンポンポンと押していけるならば簡単。
ところが、市販しているものは「曜日」が無かったり、和暦あるいは2桁に省略された西暦を使っていたりする。
「曜日」は、写真の状況を理解する一助になるだけでなく、「日付」のエラー訂正のための冗長性としても有用。
つまり、「曜日」と「日付」との間に矛盾があるのであれば、何かが間違っているということが判明する。
また、「和暦」を使うと絶対的な時間的位置が解りづらい。もし途中で年号が変わると収拾がつかなくなる。
西暦にしても、省略された2桁での記述は和暦と混同することもあろう。今現在は良くとも、後世の人間に混乱を与えかねない。写真の内容などから年代を推測するということも可能だろうが、そもそもそんなことを必要とするならば何のための記録なのか?
要するに、我輩の必要としているデートスタンプは「2005.12.20(火)」という表現が可能なものである。少なくとも、既製品には存在しない。いや、あることはあるのだが、西暦は桁ごとに組み合わせるのではなく2001、2002、2003・・・などというひとまとまりの活字が並んでいるのみ。つまり、2015くらいまでしか活字が用意されていないのだ。
我輩は100年先200年先のことを考える人間である。そのようなスタンプを使うわけがない。
ただそうなると、これまでと同じように肉筆での記録が続くことになる。目の前に積まれたスライドマウントを前にして、我輩は腕組みをした・・・。
そんな時、ふと、スタンプの特注を受けているところはないかと考えた。
早速、インターネットで検索。幾つかヒットした。
我輩の要求する仕様として、油性インクが使えるものでなければならぬ。そういった条件で絞ると、
(株)池永の
印章事業部門に行き当たった。
特注回転印の自動見積り画面で色々と試しながら自分に最適なデートスタンプを探った。
その結果、西暦を全ての桁に分解することはせず、上3桁を一つにまとめ、最後の桁を分けた。これでも上3桁は「198」〜「209」まで作ったため、100年近くは使えることになる。
一方、撮影レンズやフィルムなどの記録については、日付とは別のスタンプとした。
撮影場所の記述については、さすがにこれは手書きで対応するしか無い。