2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
2.用語集
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5.カメラ雑文
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7.テーマ別写真
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カメラ雑文

[463] 2004年01月04日(日)
「SFX(特殊映像効果)」

我輩は年末に横須賀にある三笠公園へ撮影に行った。
そこには日露戦争で戦った戦艦「三笠」が展示されているとのこと。戦艦三笠は、曾祖父虎太郎が乗艦した戦艦「朝日」の姉妹艦であるため、我輩はその写真を撮影して祖父に送付しようと思っていた。

京浜急行横須賀中央駅から徒歩10分弱。事前に地図で確認した場所を目指し大ざっぱに歩くと、三笠公園を示す矢印があった。その方向へ歩くとすぐに三笠のマストが見えてくる。
ところが、三笠は出航直前であり岸壁を離れようとしていた。急いでカメラを取り出し、露出を計り、そして撮影した。まさに間一髪、唯一撮れた写真が以下のカットだった・・・。



さて、「スターウォーズ」や「未知との遭遇」、「E.T.」などのSF映画がヒットした時代、SFX(特殊映像効果)と呼ばれる映像技術が大きく進歩した。
ガラス板の表面に写真のようなリアルな背景を描くマットペインティング、違和感の無い特殊メイク、宇宙船などのミニチュア製作、カメラの動きをコンピュータで制御するモーションコントロールカメラ。そして、それぞれに得られた素材映像を一つのフレームに焼込むオプチカルプリンター。
必要な映像があれば、その都度新しいアイディアが生み出されるため、表現不可能な映像は何も無くなった。

近年ではデジタル技術の発達により、一部分どころか画面全体をコンピュータで生成することさえ可能となり、現実の世界での撮影を一切行わないフルCGの映画さえ登場した(ただし、実際の人間の動きをトレースするために撮影する場合もある)。

我輩がSFX技術に興味を持ったのは中学生の頃だったが、当時はコンピュータによる画像処理は夢の世界で、せいぜいワイヤーフレームのブラックホールやワームホールなどを描くくらいであった。
そのため当時のSFX特集本では、ミニチュア製作や特殊カメラの紹介などが主で、かえってボリューム感があった。これがもし現在のSFX特集であれば、コンピュータ画面のキャプチャばかりの紙面で味気無かったろう。

それにしても、最近のSFXを使った映画というのは派手さが前面に出ており、いかにも映像を加工しましたというシーンが多く登場する。観客に飽きられないようにどんどん派手さがエスカレートし、現実世界を遙かに越えてしまっても行き着く先は無い。
このことはSFX初期の頃から指摘されており、「SFXを使ったと観客に気付かれてはその映像は失敗である」と言うハリウッド関係者さえいる。ただしこのような意見は少数派でしかない。

派手なSFXを使った映画としては「キングコング」が最初のヒット作と言われている。一方、地味にSFXを使った映画は「市民ケーン」が最初である。
「市民ケーン」では、映像の視覚効果を上げるために、背景と人物など複数の映像を1つに合成したシーンを使っている。それにより画面の奥行きが出たり、余計な背景を消したり、遠景と近景の両方にピントを合わせたりすることが可能となった。しかもそれが観客に悟られないほどの自然な描写であるため、SFXを使った意味は非常に大きい。
(正月休みに「アンタッチャブル」のDVDを購入して鑑賞したが、これも同じような手法により地味なSFXが映像の効果を上げていた。)


ところで、戦艦三笠の写真について、言うまでもなく冒頭の写真はコンピュータによる修正を施した、いわばSFXの静止画版である。
本来ならば手間の掛かる処理を行うよりも、写真撮影のみで目的が遂行出来ればそれに越したことは無い。だが現実には、撮影に関する問題が幾つかあった。

撮影当日、我輩が実際に三笠公園へ着くと、撮影場所の引きが足りないため通常の広角レンズでは全景が納まらないことに気付いた。
また、陸上展示ということで背景にマンションや機械などの構造物が重なっている。
三笠は陸上展示とはいえ、反対側は海に面しており逆方向からの撮影は不可能。また年末休みのためか、船内見学は出来なかった。
これでは満足に写真は撮れない。魚眼レンズでも持ってくれば良かったかと思ったが、艦の形が歪んで写っては意味が無い。

しかし、せっかく来たので何とかしたい。
とりあえず何枚かに分けて撮影し三笠の全景をカバーしてみた。これをパソコンに取り込んで合成すれば1枚に納まるかも知れないが、やってみるまでは自信は無かった。


画像合成にはAdobe Photoshopというレタッチソフトを用い、それぞれの画像を一つに繋ぎ合わせて歪みを補正、同時に背景を切り抜き、そこに雲模様のフィルタ処理をした。ついでに煙突からの煙も同様に雲模様をあてることによって合成した。また無数の細い張線を背景から切り抜くのは手間がかかるため、いったん背景と共に張線を消し、後でパスを用いて描き直した。あとはフジ・メディアプリントで銀塩ペーパー出力すれば良い。
最近の映画の傾向で行くならば、この艦を空に飛ばし"宇宙戦艦"として派手さを狙うのだろうが、今回は地味に戦艦三笠を航行可能な状態にまで復元するにとどめた。
これの地味さが、本来のSFXというものである。


中学時代には、友人のクラッシャー・ジョウとオカチンの写真を切り抜いて月面の写真の上に貼り付け、それを再びカメラで接写して合成写真を作ったりした。これはコラージュと呼ばれる手法であり、SFXとしては最も原始的な技術と言える。
しかし現在、中学時代には考えられなかったような映像加工が、パソコンという道具を使って個人レベルで可能となった。マウスのクリックだけで簡単に写真が合成出来るのだ。


合成前の写真と、合成後の写真、どちらがより感動を生むかによって、SFXの価値が決まる。祖父がこの写真から曾祖父虎太郎の戦いを見ることか出来るかどうか。
それが達成されれば、そのことが特殊映像効果としての大きな"効果"ということになる。