2000/04/05
OPEN

表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
8.リンク
9.掲示板
10.アンケート
11.その他企画

12.カタログ Nikon
 F3 (F3H)
 FM3A
 FM2
 FM
 FE2
 FE
 FA
 FG
 FM10
 FE10
 F4
 F-401X

Canon
 AE-1P
 AE-1
 newF-1

PENTAX
 K1000
 KX
 KM
 LX
 MX
 MZ-5
 MZ-3
 MZ-M

OLYMPUS
 OM-3Ti
 OM-4Ti
 OM-2000

CONTAX
 ST
 RTS III
 Aria
 RX
 S2

MINOLTA
 X-700
 XD

RICOH
 XR-7M II
 XR-8SUPER

カメラ雑文

[430] 2003年06月14日(土)
「廃線ロープウェイ撮影記(前半)」

東京都奥多摩には、1960年代の数年間しか運行されなかったロープウェイがあり、廃止後の今でもその施設が遺されているという。奥多摩湖を横断する600メートルほどのロープウェイだったが、橋で簡単に渡ることが出来るために用無しとなったらしい。
我輩がそれを知ったのは廃線関連の書籍であったが、その場所にはロープウェイの車体までも残っているとのこと。しかし残念なことに、その書籍に掲載された写真は1枚のみであり、それ以上の映像情報は無かった。

我輩はなぜかこの物件に心惹かれ、インターネット上でもいくつか情報を集めてみた。そこには、魅力的な写真が幾つかあった。
ただ、もっとよく細部を見ようとすると、パソコン画面のドットに阻まれ果たせない。ドットより細かいものは見えないのだ。
時間をかけて眺めようとする写真であれば、もっと細かい描写が欲しい。情報量が欲しい。これはもう、自分で出かけて行き自ら映像を採集するしか無かろう。

ただし奥多摩は遠い。東京都ではあるが我輩の住む千葉とは正反対の側にある。下手をすれば泊まりがけにもなろう。
そう思いながら調べてみると、片道3時間半くらいとギリギリ日帰り可能であることが判明。
だがよく考えると、以前から気になっていた「日原鍾乳洞」も奥多摩にある。両方行こうとすればやはり日帰りは難しかろう。かと言って一人での宿泊は出来まい。ビジネスホテルならばまだしも、旅館で一人で泊まるのは部屋数からいって無理である(平日ならば一人宿泊可能な旅館はいくつかあるようだ)。
仕方無い。今回は日原鍾乳洞は諦めて廃線ロープウェイに絞ることにする。

撮影予定日は土曜日とした。土曜日に撮影を行い、日曜日に疲れを癒やす。これが基本。
ちょうど、天気予報では次の土曜日が「晴れ」とのこと。この機会を逃してはならぬ。だが「次の土曜」とは、まさに明日。そう気付いたのはもはや夜中。早く寝なければ体力的に辛い。
結局、前日は何も用意出来ずに就寝した。

次の日、大急ぎでカメラやフィルムの準備をした。
インターネット上の情報によれば、現場は引きの無い場所らしい。当然ながら広角レンズは必須であろう。情報量確保のために中判で撮るのは当然のことであるが、念のため魚眼レンズも持って行こうと考えている。そうなると、重くとも一眼レフしか選択肢が無い。
その他には、列車の乗り換えやバスの停留所情報を慌ててメモして家を出た。

それにしても、どうも日光が弱い。晴れではなく曇りと言えるかも知れない。天気予報を信ずるならば、日中は気温が上昇して薄雲が晴れてくれるだろう。
途中、ストロボを忘れたことを思い出し、どうしようかと迷ったが、施設の中は真っ暗な場所もあるとの前情報を得ているため、取りに帰らざるを得なかった。

まず、北千住経由で新御茶ノ水駅へ出て、JR御茶ノ水駅から中央線快速で立川まで向かう。
立川に着いて下車すると、なんと、さっき乗っていた快速は「ホリデー快速奥多摩行き」となっていた。この列車にそのまま乗って行けば奥多摩に着くのである。しかし、気付いた時にはドアは閉まり、次の青梅行きを待つことになってしまった。青梅駅での乗り換えが1つ増えてしまったが、まあ、大幅に遅れるわけではない。

奥多摩駅に着くと、登山やハイキングの格好をした者が多くいた。
駅前にはバスの発着所があり、我輩は乗り場の列に並んだ。事前に調べておいたバスの行き先表示であることを確認した。
バスは後払い形式で、運賃は分からないが恐らく350円前後ではないかと予想した。
それにしても登山者たちは荷物が多いので、バスは非常に混んでいた。我輩は自分の荷物がカメラ機材にしては多いほうだと思っていたが、こういう団体に囲まれると、自分は軽装であると実感する。

やがてバスは発車。
15分ほど走ったが、なかなか奥多摩湖が見えてこない。それどころかカーブの多い道をバスはどんどん登って行く。だんだん不安になってきた。
「もしかして、バスを間違えたか・・・?」
しかしもし間違えたとしても、こんな山道で降りてもどうしようもない。路肩は狭く、走り屋の多い道ではヘタすれば交通事故に巻き込まれるだろう。しばらく様子を見るしか無い。

バス内の運賃表示板を見ても、整理券の番号が表示されるだけで次の停留所の名前は表示されない。唸るエンジンの騒音の中で車内アナウンスに耳を澄ます。途中で降りる者や乗り込む者がいないため、全くのノンストップ状態。
その間、聞いたこともない停留所名がアナウンスされている。もっと良く下調べしておけば良かった。我輩の降りるべき停留所は「深山橋」だが、「ふかやまばし」と思っている自分に今更ながら不安を覚えた。もしかして、他の読み方があるのではないか?

幸いなことに、バスは奥多摩湖に出た。
バスは間違っていない。問題は、無事に「深山橋」で降りることが出来るかどうか。
記憶の中にある地図によれば、橋を2つほど渡るはず。1つ目・・・2つ目・・・。だがそれらしいバス停は無い。ふと前方を見ると、もう一つ橋が見えた。バスのアナウンスは「みやまばしー、みやまばしー」と言っている。
我輩は、すかさず停車ボタンを押し、530円を払ってバスを降りた。
もし最後まで「ふかやまばし」と思い込んでいたとしたら、この場所を通り過ぎてしまったかも知れぬ。地図上の橋も1つ見落としていたようだ。
危なかった・・・。

バスが走り去った後、静かな場所にぽつんと1人残された。
静かなのは気持ちが落ち着く・・・と思う間も無く猛スピードで3台のオートバイが爆音を響かせながら疾走して過ぎた。少し腹が立ったが、耳を澄ませば、他にもオートバイの爆音が聞こえてくる。ここは、走り屋が集まる場所らしい。

さて、奥多摩湖のほうを見ると、なるほど、ロープウェイのものと見られるケーブルが湖を横切っているのが見える。これを辿れば、目的地に着くに違いない。
まずは手前側を辿ってみる。
ケーブルを見ながら歩くと、先程乗ったバスが来た道を戻ることになった。しばらく行くと、ケーブルを支えている鉄塔が見えてきた。その近くには別のバス停もあり、結局、「深山橋」は最寄りの停留所ではないことが判明した。
鉄塔の立っている場所は小高い丘になっており、その中をトンネルが貫いている。丘の上は木が茂っており良く見えない。恐らくその中にロープウェイの駅があるのだろう。そこへ行くにはどの道を行けば良いのか。

とりあえず、目の前にある駐車場の脇にある坂道を上ってみることにした。鉄塔の方向に上るのだから間違い無かろう。
鉄塔を上に見ながら、ケーブルをくぐり、民家の脇を通る。歩きながら丘の上を見ると、墓地があってそこへ行く道がある様子。しかし、そこから辿り着くはずは無い。当時の観光客が、墓場を通ってロープウェイに乗るとは考えにくい。だが、結局それらしい道が見付からないまま、ぐるりと丘の周りを回っただけでトンネルの向こう側に出てしまった。
仕方無く元来た道を戻り、駐車場にある食堂の店主にロープウェイの駅を訊いてみた。すると、道を渡った側にある坂道を上ると辿り着くとのこと。早速、トンネル前の道を横切り坂を上った。コンクリート舗装のその坂はかなり急で、滑り止めのためか、路面には溝がいくつも横に入っている。さすがの我輩も息が切れた。もし車ならば四輪駆動車でなければ上がれそうもない。

坂を越えるとそこにはテニスコートがあった。そして、その奥に怪しい建物がある。そこがロープウェイの駅「かわの駅」である。
そこはフェンスに遮られており、遠目には入れそうもないかと思われたが、近くに行ってみると、フェンスの扉には鍵は付いていなかった。

まず、建物全景を撮る。さらに、接近して撮る。
薄曇りのためか、我輩好みのカッチリした画になりそうもないのが残念。ファインダーで覗いた状態で既にそういう感じだった。

次に建物の中に入り色々と様子を見た。全体の様子を把握してからゆっくりと撮影をするつもりである。
夏も近いためか、木々は葉を茂らせ、施設全体がとても暗い。しかも僅かに曇り空であるから尚更。
露出計代わりのデジタルカメラで露出を確かめると、開放絞りでも1/15秒と出た。まずいな、これほどまで暗いとは思わなかった。手持ち撮影ではかなり厳しい。
仕方無いので、手すりや壁にカメラを密着させて慎重にシャッターを切る。しかし、どうもブレているような気がして、同じ構図で何枚もシャッターを切った。


ロープウェイの操作室に入ってみた。そこは目が慣れるまではほとんど真っ暗だった。その奥には機械室がある。そこは更に真っ暗で気味が悪い。遠くでオートバイの爆音が聞こえている。それが却って、誰もいない廃墟の静けさを強調しているようだ。
場所を考えると裏手は墓場のようであるから、まさか霊の溜まり場になっていないだろうな・・・?
「ナウマクサマンダバザラダンカン」
我輩は、思わず自分の守護仏である不動明王の御真言を唱えた。恐らく守護仏は「自らの意志で危うきに近寄るのであるから、本当に危ない時以外は知らぬ」と言い捨てたに違いないが。

操作室には操作盤があり、そこが現役だった頃の様子を想像させた。ストロボで天井バウンスをしようとしたが、テスト発光しても調光確認ランプが点灯しない。調光が正常ならば緑ランプが点灯するはず。つまり露出不足か。
このストロボで選択出来る絞り値はF2.8とF5.6の2つのみ。レンズ側はF3.5まで開けられるので、ダメ元で絞りをF3.5の状態でバウンス撮影した。うまくいったかは分からない。デジタルカメラで確認出来れば良いのだが、このデジタルカメラはシンクロコネクタが無いのでそれが出来ない。一眼レフ型のデジタルカメラが必要だったか。

操作室の裏には機械室が見えた。ほとんど真っ暗な広い空間だった。ストロボ光が届くか分からないが、先程と同じようにF3.5で撮影した。更に、4秒の長時間露光でも撮影した。窓枠にカメラを乗せてブレないよう気を付けたが、自信は無い。

機械室を出て何枚か撮影をしていると、外で子供の声が聞こえてきた。どうやらこちらに近付いているらしい。木の枝が生い茂っているので良く見えない。我輩は構わず撮影をしていたが、その子供がフェンスの外からこちらを見て「あ、人がいる!」と言った。枝の間から見えるその子供は大人と一緒にいる。父親か祖父だろうか。顔が隠れて見えない。向こうもこちらが良く見えなかったろう。
そのうちその2人は隣のテニスコートのほうに移動した。

我輩は改札を撮ろうと思い、出口のほうに移動した。先程の子供と大人が見えた。白い軽トラックが止まっている。この車であの坂を上ってきたのかと少々ビックリした。
改札と通路は狭いためか、今度はテスト発光でストロボの調光ランプが点灯した。よって、F5.6の指示通りに撮影した。手持ち撮影はフレーミングに気を使うので慎重に行う。だが、背後から子供の声が聞こえた。「あの人、全然動かないよ。」
やがて、2人は車で帰っていった。

我輩は駅舎屋上に上ってみた。対岸の駅は木が邪魔してよく見えないため、撮影しても廃線としてはあまり面白くないが、一応シャッターは切った。相変わらず薄曇りの天気でメリハリが無く気が萎える。

とりあえず、この駅の撮影はこれで完了とした。スローシャッターが多く不安は多いが仕方無い。
では、対岸の駅に行ってみよう。
我輩は、先程上った急な坂を降りて行った。そこでは人の姿も見え、まさに人間界に戻ってきたという印象だった。

〜後半、次回雑文に続く〜