2000/04/05
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カメラ雑文

[422] 2003年05月01日(木)
「古事記」

以前の話になるが、雑文359「アーカイブス・プロジェクト」では、退色したプリント写真をパソコンにて復活させた。
真新しいそれらの写真は最新の印画紙であるため、恐らく200年くらいはクオリティを維持すると思われる。
だが、退色した元のプリントを棄てることは出来ぬ。

そもそもプリント写真は、反射光によって鑑賞される。リバーサルフィルムなど透過光ほどの豊かな階調があるわけではない。そのため、パソコンで取り扱うデータ(一般的に24bitカラー)の中に、取りこぼし無く収めることが出来る。注意深くスキャンすれば、オリジナルに近いクオリティを得られるだろう。しかも、パソコン上で色調整を行い、カラーバランスの崩れたものを元に戻すのであるから、元のプリントは棄ててしまっても問題は無かろう。
ならば、何故に元のプリント写真を棄てられないのか。

以下、「文字」を例にして考えてみることにする。

文字は、画像と比較して極めてデジタル的と言える。
8世紀初めに編纂(へんさん)されたとされる日本最古の史書「古事記」では、その内容は活字として書き写されたものが我々一般人も所有出来る。現代漢字とは多少違うことはあろうが、伝える中身が劣化することは無い。情報的には、書き写されたものと原本とは同一と言って良い。いや寧ろ、原本の文字がかすれ消えかかっていようとも、文字というものは書き写された時点で新品に生まれ変わる。

だが、古事記の原本は国宝に指定され、非常に大事に扱われている。なぜならば、古事記の価値は内容だけのものではないからだ。
千数百年もの時を経たその書物は、タイムスリップしてポンと現代に現れたのではない。現代にまで連なる長い歴史の中で、連続した時間の中でそれは存在し続けてきた。だからこそ、いくら内容が複製出来ようとも、原本の貴重さに変わりは無い。

一方、我々の身の周りに目を移すと、そこらに散らかっている物の中で、一番古い物に何があろう。せいぜい、"昭和五十年"などと刻印された十円玉くらいのものか。少なくとも、自分の人生の長さを越えて存在するような物は極めて稀(まれ)である。
そう考えると、古事記の原本が千数百年前のものであるということは、稀の中にあって更に稀と言うほか無い。


さて、ここでアーカイブス・プロジェクトの話に戻してもう一度考えてみる。

修復後の元の写真は、今や写真情報としては用無しに近い。コンピュータ処理によってオリジナルの色を取り戻し、真新しいプリント写真として生まれ変わった。
だが、我輩の子供の頃の写真は、その時代にプリントされた写真である。我輩の生きた時代を経て今に存在している。それは、古事記のように稀な存在。そんな長い時間存在し続けてきた写真たちの存在を、今この場で断つ勇気は我輩には無い。

もしこれがリバーサルフィルムによる写真であれば、その想いはもっと強かろう。
なぜならば、リバーサル写真は撮影時に使ったフィルムそのものが鑑賞用でもあるからだ。すなわちこのフィルムが、その場その時間にあった、いわゆる記念品とも言える。

ならば、デジタルカメラの場合はどうか。
デジタルカメラで言うところの写真とは、当然ながらデジタルデータそのものである。データは壊れ易いものの、うまく残ればそのクオリティは撮影時のままを保つ。退色した写真の修復作業など必要無い。
だがそこには、人生を共に歩んできたという感慨は無かろう。

印画紙に焼き付けられた写真が古事記に相当するならば、デジタルデータのみの写真は口述伝達に相当すると言える。実体は存在せず、データを収めた媒体も時代と共に替わって行く。
こういうデジタル写真に、もし感慨を込めようとするならば、撮影した時代を過ぎぬうちに随時印画紙に焼き付けねばならぬ。あたかも口述伝達を書き留めるかのように。

もっとも、感慨の無い写真を目指すのがデジタルカメラの特長を活かす使い方ではあるのだが・・・。