2000/04/05
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カメラ雑文

[409] 2003年03月22日(土)
「電磁レリーズ」

前回の雑文にて、「ブロニカSQ-Ai」と「ブロニカSQ」のレリーズ形式の違いについて少し触れた。
両者ともセイコー製電子シャッター(レンズシャッター)方式であり、共通のレンズが使えるのであるが、SQ-Aiでは電池が無ければシャッターは全く切れず、SQでは電池が無くとも単速1/500秒でのシャッターは切れる。
これは、「電磁レリーズ」であるか否かの違いである。


我輩が最初に「電磁レリーズ」という言葉に出会ったのは、「Canon A-1」のカタログだった。
電磁レリーズ式は従来のメカニカルレリーズ式のものに比べ、レリーズボタンの感触がソフトである。さすがはカメラロボットと言われるA-1だ。


当時、電磁レリーズについての正しい認識は我輩には無かった。何となく、電磁石が関係したエレクトロニクスの仕組みが詰まっているのだろうかと思っていた。
電磁石の反発力により、レリーズ時の心地良いクッションを指に感ずるということなのか?あるいは、レリーズボタンを押し込む微妙な深さを、磁力によって精密に探知しているのだろうか?

限られた情報を基にした想像については雑文302にも書いたように、手掛かりが小さければ、その小さな判断材料が大きくイメージを創り出してしまう。

しかし現実には、レリーズボタンは単なる電気スイッチでしかなかった。
電磁石はシャッター幕をレリーズ(解放)するために使われている「プランジャ」であった。それはあくまでシャッター側の仕組みである。
ところがカタログの説明では、あたかもレリーズボタンそのものに高度な技術が使われているように書かれており、中高生時代の我輩の想像力を余計に刺激したのである。

そうは言っても、「電磁レリーズ」とわざわざカタログに明記するのも理由がある。それまでも電子シャッター式のカメラは幾つか登場していたものの、電磁レリーズを採用したカメラは珍しかったからだ。

「電子シャッターであるから電気スイッチである」と考えるのは少し気が早い。電子シャッターはあくまで「シャッターの開く時間を電子的にカウントして制御している」というものである。そういう意味では、"電子制御シャッター"と呼ぶほうが正確。
機械制御方式の場合、低速シャッター時には後幕の間(ま)を持たせるためにガバナーと呼ばれる遅延装置を働かせねばならない。高速シャッター時のように先幕の動きを使って後幕の係止爪を蹴るわけにはいかないからだ。そうなると機械制御式では、高速・低速によって2系統の制御が必要になってしまう。しかもガバナーは歯車の減速装置であるから、油切れによって狂いが出易い。「ジー」というガバナーの音にムラがあると心配になる。

ところが電子制御式では、後幕を閉じるタイミングに制限は無い。そのため、回路一つで全シャッタースピードを制御することが可能となった。
また、単に低速側のガバナーを電子回路に置き換えるだけで高速側機械制御・低速側電子制御というハイブリッドシャッターが出来上がる。

初期の頃は、コンデンサに貯めた電気量によって秒時を知るアナログ回路を使っていたが、この方式はコンデンサの劣化によりシャッターの閉じが遅くなっていくので、後に水晶発振子(クォーツ)を使ったデジタル回路が主流となった。


一方、レリーズボタンの動作については、シャッターが電子制御化された後もしばらくはメカニカルであった。なぜならば、シャッターの電子化とレリーズボタンの電子化には直接の関連は無いからである。
電子制御式シャッターは電池が無ければ使えないが、それは単に、シャッタースピードを変速することが出来ないというだけである。シャッターの動力はスプリングであり、動かすこと自体に電力は必要無い。
だから当時の「メカニカルレリーズ・電子制御シャッター」のカメラは、電池が無くとも単速(フォーカルプレーンシャッターの場合1/125秒前後)でのシャッターが切れる。

しかし、レリーズボタンの動作がメカニカルであると感触が良くない。レリーズボタンを押す力が直接、シャッターの係止爪を外す仕組みになっているからだ。
そうなるとレリーズボタンを押す力も強くなり、ストロークも深くなる。結果、手ブレの原因にもなった。
そこで、レリーズボタンを電気接点とし、プランジャ形式の電磁石を作動させることによってシャッターの開始をさせることになった。これならば、レリーズボタンを押す力は、電気接点を閉じるだけで良い。

<シャッターレリーズの原理>
(1)メカニカルレリーズ式
メカニカルレリーズ式は、先幕係止爪が機械的に外される。
この時、電子シャッターの場合は電子的に後幕係止爪が制御され、機械シャッターの場合は機械的に後幕係止爪が制御される。



(2)電磁レリーズ式
電磁レリーズ式は、先幕係止爪が電気的に外される。
この時、電子シャッターの場合は電子的に後幕係止爪が制御され、機械シャッターの場合は機械的に後幕係止爪が制御される。




ところがレリーズボタンを電気スイッチとしてしまうと、電池が無くなればシャッターは切れなくなる。電子シャッターであろうとも単速でのシャッターは利用出来るはずなのだが、物理的に先幕の係止を外せないのであればどうすることも出来ない。

ニコンF3の場合では、電気スイッチ形式のレリーズボタンとは別に、メカニカルな機構によって強制的にシャッター先幕を走らせるための「緊急作動レバー」がある。もちろん、電池が無いのであるから、先幕が走り終われば直ちに後幕が走りシャッターが閉じる。また反対に、電池さえあれば(露出計が表示されている間であれば)、緊急作動レバーでの操作でもシャッターダイヤルで設定された値でシャッターを切ることが出来る。
これは、電子シャッターが、レリーズボタンの電子式・機械式に関係無いということをよく表している。


カメラはどれも同じように見えて実はそうではない。こういった違いが、使い勝手や失敗を分けることになる。
もちろん、「どれが最も優れた方式か」などということを議論する意味は無い。それは使う人間の思想によって変わってくる。
ただ我輩にとっては、どちらかと言うと操作の感触よりも、確実に動作するカメラのほうが気が休まるということは確かである。信頼性のあまり無いメーカーのカメラならば、なおさらそう思う。