2000/04/05
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表紙

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カメラ雑文

[381] 2002年11月07日(木)
中判魚眼レンズへの道(5)「やむを得ない措置」

中判カメラで全周(円周)魚眼撮影を行うには、現時点では自作する以外に選択肢は無い。
そのため我輩は、自分を信じて自作を敢行した。
その結果は・・・、何とも言い難い。
なぜにこのような歯切れの悪い言い方となるのか。それは、魚眼レンズの精密さにあった。

天文関係の雑誌やサイトを見ると、皆一様に「フィルム吸引加工」を行っている。夜間の長時間露光により、途中でフィルムが浮き上がってしまいフォーカス面から外れてしまうのを防ぐためだという。
そのためにフィルム圧板に空気抜きの穴とホースを設置したり、裏紙の無い220フィルムを使ったり、場合によっては120フィルムの裏紙を取るなどそれなりの努力をしている。

我輩は当初、これらはマニアな天文野郎の過剰処理だと思っていた。星の光を限りなく点として撮影したいというこだわりを突き詰めたものだと思っていた。
だが実際に自作魚眼カメラの写真を見ると、それが間違いであることが判った。画面中心部近くのピントが甘いのである。明らかにフィルムが浮いている証拠。
試しにフィルムバックにフィルムを装填して観察すると、どうやら本当に中心部分が浮いているようだ。指で押してみると、フィルムの浮きは感覚的には0.5mmほどか。他のフィルムバックを確かめてみたが、やはりそれくらいの浮きが認められる。
0.5mmというと僅かなように感じるかも知れないが、魚眼レンズでは0.5mmのフィルムの浮きは、無限遠から50cmくらいまでのフォーカス移動に相当する。つまり、ピントを50cmの距離に合わせたつもりが、フィルムの浮いている中心部だけが無限遠にピントを合わせていることになる。

以下に、合焦ポイントの分布を示し、そこから推測されるフィルムの状態を描いてみた。


カメラ製作当初は、その問題が表面化しなかった。
まだ気温が高くフィルムが硬くなかったせいもあるかも知れない。あるいは、撮影の機会が今より少なかったためフィルム浮き現象に当たる確率が小さかったためかも知れない。またあるいは、日差しの強い季節に絞りが大きく被写界深度が深かったためかも知れない。

いずれにせよ、フィルムの浮き上がりが現実に起こっているのであるから、もしこれを解決させるのであれば天体野郎のやっているように吸引加工を施さねばなるまい。しかし吸引加工を行うと吸引ホースなどを付ることになり、せっかくのコンパクト性を失う。それにより撮影シーンを狭めてしまうのは非常に残念である。

以下の写真は、コンパクト性を活かして撮影した飲み会のスナップである。
吸引ホースなどが取り付けられていたら、カバンからヒョイと取り出して気軽に撮影は出来なかったはず。床やテーブルに直(じか)置きしてセルフタイマーをネジ込み撮影する気軽さ。それ無くしてこの写真は無かった。
写されるほうもそのほうが気楽であろう。


居酒屋「だんの家」/田町
1/2sec. F2.8/Kodak EPP

居酒屋「藩」/田町
1sec. F2.8/Kodak EPP

この撮影の時点では、フィルム浮きの問題は既に認識しており、多少ピントの不安はあった。我輩はその不安を振り払うように次のように宣言した。
「成功する確率は50パーセント。というわけで2枚ずつ写そう。そうすれば確率100パーセント!」
酔いが醒めた後で考えると、50パーセントの確率を2つ重ねても100パーセントではないことに気付いたが、まあそれは誰も指摘してこなかったので無かったことにする。

幸運なことに、このスナップでは絞り開放で撮影したにも関わらず、ピントの外れは全く無かった。飲み会の盛り上がりのせいで温度が上昇していたせいか?

とにかく現状では、F5.6〜開放絞りによる撮影ではピントに自信が持てない。F8以上に絞れば被写界深度で何とかカバー出来そうだが、それでは撮影シーンが限定される。何と言っても、他の種類のレンズでは得られない全周魚眼レンズである。成功率は良くないが、使うべき時に使うことにしよう。それまでの間は、試し撃ちの意味で経験を積み、少しでも成功率を上げるよう努めるとする。

以上のように、全周魚眼については個性のある写真が撮れるために制限付きであろうとも仕方が無い。
だがそれとは別に、安定して撮影が出来る魚眼カメラも欲しいと思う。
つまり、対角線魚眼でも構わないというシーンでは、確実さを優先させるため被写界深度が目視出来る一眼レフが良い。それにはどうしても、自作カメラではなく既製品が必要となる。

我輩は中判を66判でしか使わない。とにかく66判で使える魚眼レンズ、それが我輩の条件である。
厳しいことに、この条件に当てはまるカメラやレンズはハッセルブラッドなどの非常に高価な物しか存在しない。前回の雑文でも書いたが、比較的安価な「ゼンザブロニカPS 35mm F3.5 フィッシュアイ」もタッチの差で販売終了となってしまった。

そこで今回、以前から気になっていたロシア製魚眼レンズを考えることにした。
ロシア製のカメラ機材は、雑文325「ロシア製デッドコピー」でも述べた通り信頼の足る代物ではない。しかし、カメラ本体に比べて複雑なメカニズムの少ない交換レンズでは、そこそこに評判が良い様子。
インターネット上を色々と巡ってみると、66判用の対角線魚眼レンズ「ARSAT 30mm F3.5」や「zodiak 30mm F3.5」が安価に出回っているとのこと。2〜3万円程度らしい。
ただし、このレンズはすでに製造元でも生産終了となっており、輸入業者のほうでも入荷未定となっている。ということは、購入するならば選択肢は中古のみ。
それでも「ゼンザブロニカPS 35mm F3.5 フィッシュアイ」のようにモノが全く存在しないということはない。インターネットのオークションにも時々出品されるのを見掛ける。モノ自体が世の中に存在するため、待っていればいつかは巡り会えるということだ。

しかし大きな問題がある。
これらのレンズが使えるカメラボディの種類が限られている。旧東ドイツ製の「PENTACON 6」や、それをコピーしたロシア製「Kiev 6C」、「Kiev 60」、そしてハッセルブラッドをコピーした同じくロシア製「Kiev 88」、そして「PENTACON 6」の改良モデルの「EXAKTA 66」など。
それらは宿命的に背負った不具合を抱え、インターネット上では、例えばコマとコマが重なったり特定のシャッタースピードが切れないなどという体験談が非常に多く目立つ。
これならば、我輩のピントの曖昧な自作カメラで撮影するのと何ら変わらない。安定して使えないのであれば、わざわざ対角線魚眼レンズで妥協する意味が無くなってしまう。

そうは言っても、一眼レフファインダーによって被写界深度がその場で確認出来るのは強みである。何とか使えるカメラは無いものか?
色々と悩みながら、更にインターネット上の情報を探っていると、不具合なカメラでも個体の選び方次第や使い方次第で何とかなる場合があると知った。
ただしそれらの情報は我輩が実際に体験した内容ではないため、真偽のほどは定かではない。しかし、複数のサイトや掲示板に書かれていることであるから、単なる思い込みや勘違いということも無かろう。
情報を総合して考えると、どうやら「Kiev 6C」というカメラが他のカメラと比べて幾分マシなようだ。もっとも、個体差の激しいロシア製カメラであるため、その機種を選んだだけでは安心出来ることでもない。

そうこうしているうち、インターネットのオークションに対角線魚眼レンズ「zodiak 30mm F3.5」が出品された。この段階ではカメラボディの問題が未解決であったのだが、目の前に目的のレンズが出品されているのを黙って見過ごすわけにもいかず、ついにそのレンズを落札してしまった。
後になって、よく吟味して手に入れるべきだったかも知れないとは思ったが、再び後悔するような事態を避けたかったのだから仕方あるまい。要らなければ売れば良い話。

zodiak 30mm F3.5

それにしても、意外と見事なレンズ外観。金属製の鏡胴がズシリと重い。特に、ピントリングはゴムのローレットではなく金属を彫ったものであることに気付き少し驚いた。このような造りは、かえって手間がかかるのではと思う。

今のところ、このレンズの写り具合は全く不明。これを装着するカメラボディが未だ手元に無いから仕方無い。
まあ、カメラボディのことは後で考えることとし、とりあえず今回は、生産終了の魚眼レンズ入手を優先させたことで良しとしよう。


使うかどうか分からないレンズの購入、自分でもかなり乱暴な買い方だったという気もするが、後悔を最小限に抑えるためのやむを得ない措置だと割り切るしか無い。
このレンズは人気であるらしく、生産終了となってから値段が少し上昇傾向にあるという。我輩が手に入れた4万円という値段は少し高めだったかも知れないが、人気があるならばと自分を納得させて次の手をゆっくりと考えよう。
もしかしたら、もっと別の展開があるかも知れないからな・・・。