2000/04/05
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表紙

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2.用語集
3.基本操作法
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5.カメラ雑文
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カメラ雑文

[372] 2002年09月16日(月)
「雷」

雷は夏の夜の風物詩と言える。
だが落雷は非常に危険で、花火のように窓を開けてボンヤリと眺めていられるような対象ではない。
ある例では、遠くでゴロゴロと雷雲が近付いて来たので、主婦が急いで洗濯物を取り込もうと2階の窓を開けてベランダに身を出したら、突然雷に打たれて死亡したという。

我輩自身、雷が近くに落ちた経験が2回ある。

1回目は、会社本社の会議室にいた時だった。その会議室は最上階にあったため天井は屋上のすぐ下である。鉄筋ビルではあるものの、古いビルであるために激しい雨が降れば「ゴゥー」という低い音が聞こえてくる。
その日も雨が降っており、雨が急に激しくなったのか天井から例の如く雨音がしてきた。
「帰るまでに止めば良いが・・・。」
そう思ったと同時だった。すぐ上の天井で「パンッ!」と乾いた音がした。風船の割れるような音だ。
「なんだ?!」
皆、上を見た。すると、「ガラガラドカーン!!」と身体に響くほどの大音響が耳をつんざき、それと同時に非常ベルが館内で鳴り響いた。 周囲は騒然となったが、非常ベルが止められると平静を取り戻した。
結局、この時の被害は火災報知器の回路が焼き切れたのみ。パソコンなどの情報機器には影響が無かった。
それにしても、天井の薄い構造であるが故、落雷の音が非常に近く聞こえたのは貴重な経験だった。恐らく、稲妻の距離は我輩から数メートルほどであったろう。

2回目は、客先から田町の事務所に戻る時だった。
京浜東北線の電車内から外を見ていると、何だか怪しい黒雲が追いかけてくるのが見えた。その雲は、時々閃光を走らせている。雷雲に違いなかった。
田町駅に着くと、すぐに雨が降り始めた。空は不気味に真っ黒に染まっていた。
我輩は折り畳み傘を取り出し事務所に急いだ。小さい傘であるから、すぐにズボンと靴が水浸しになる。だが、雷雲であることは明白であるから、一刻も早く事務所に帰りたい。
雨に耐えながらも、あと10メートルで事務所だという所まで辿り着いた。
その瞬間だった。
目の前が真っ白になり、ほとんど同時に「ドカーン!!」という爆弾のような音が響いた。落雷だ。場所は分からなかったが非常に近い。
我輩は反射的に身をすくませたが、雷相手には遅すぎる行動であった。ふと見ると、近くの店で雨宿りをしていた女性の顔がこわばっていた。
我輩は走って事務所のビルに入り、ドアを開けた。すると、またしても非常ベルが鳴り響いていた。どうやら、事務所のビルに落雷したらしい。またもや稲妻とのニアミスであった。


雷とは、空気中を走る電気の放電である。
空気は絶縁体ではあるのだが、高温になると空気の分子が電離しプラズマとなる。プラズマは導電性があるため、そこを目がけて大電流が流れ込み、次に接する空気の温度を上げプラズマ化させる。・・・このようにして次々に絶縁を破壊しながら突き進む電流が稲妻である。
それは紙を破る時のように、絶縁の弱い部分を選んで電流が流れる。時にはジグザグに折れ曲がり、時にはいくつも枝分かれをする。
絶縁を破壊しながらの放電であるが、放電そのものは短い時間に何度も起こっている。いったん絶縁を破ったプラズマの道筋があるのだから、2回目以降の放電も同じ道筋で稲妻を作る。そのため、風がある時にはプラズマが横に流され、写真で撮ると同じ形の稲妻が少しズレて写っていることがある。
また、空気が熱せられれば当然ながら膨張する。ただしその膨張が急激に起こるため、その衝撃が雷鳴となるのである(銃声と同じ原理)。
さらに、高温になれば光も放射することになり、稲光として現れる。

このように、雷とは非常に大きなエネルギーを持った自然現象で、我輩自身も落雷によって少なからぬ衝撃を味わった。それ故、雷についての興味が増すこととなり、その姿をもっと知りたいと思う。
一瞬のうちに現れて消える壮大な現象。しかも、どの瞬間にどの方向に現れるのか分からない。じっくりと細かく観察するには写真に撮影する以外に方法が無い。時間を止めるために写真は有効な手段である。


8月のある日、その雷が現れた。
激しい雨が降り始めたと同時に雷の音が響く。落雷らしきものもいくつか確認した。ただしそれらは数百メートルは離れていたらしく、閃光後の雷鳴は1秒程度の時間差がある。
それでも送電関係に支障があったのか、10秒程度の停電が起こった。ノートパソコン以外のパソコンは皆沈黙してしまったが、それも構わず急いでカメラの準備を始めた。

外は相変わらず土砂降り。屋根がせり出しているにも関わらず、窓ガラスにも激しく雨が叩きつけている。この状態でカメラは出せないので、しばらく様子を見ていた。
すると、突然と雨が小降りになり、窓を開けても降り込まなくなった。

だが、窓ガラスを開けて撮影するのは恐怖である。過去の落雷の記憶が何度も蘇る。
地雷を踏んで死んだ戦場カメラマンが残したフィルムに刻まれた地雷の衝撃。落雷で死んでも同じように残るかなと思ったが、よく考えると手元にあるのはデジタルカメラ。落雷に遭えば全てのデータを飛ばすのは必至。
稲妻の露出データは無いので、仕上がりを見ながら撮影しようと思ったわけだが・・・。

まあ、データを飛ばすこと以前に死にたくはないので、窓ガラス越しにカメラを構えることにした。室内灯がガラスに反射するので、部屋の明かりを消して撮影した。 平均露光時間は3〜10秒であるが、キヤノンデジタルカメラの長時間露出時のノイズリダクションが倍時間以上掛かるのでチャンスを逃すことがかなり多い。
それでも得られた稲妻のベストカットが以下の写真である。


これは見事な雲間放電だ。
雲間放電は今まで雲の中で起こるものしか見たことが無かった。つまり、稲妻は隠れて見えず雲の内部で発光して見えた程度であった。
しかし今回は、このように横へ伸びる稲妻が見事に捉えられた。まるで体内に這う血管のよう。その形そのものが興味深い。フラクタル幾何学の表現形というところか。


今回はデジタルカメラの撮影と横着してしまったが、次回にチャンスがあればリバーサルフィルムに撮影し、プロジェクターにて大きく投影し観察したいと思う。
もし可能ならば、同時にステレオ写真にも撮り、稲妻の立体像をじっくりと観察してみたい。視差さえ充分に取れば、その立体像が浮かび上がろう。
空間の中で、どのように稲妻の糸がうねっているのか、どの方向へ消えているのか・・・。
怖いもの見たさもあり、実に興味深い。