2000/04/05
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カメラ雑文

[310] 2001年10月15日(月)
「シャッターの誤差」

ダイヤル式カメラのシャッタースピード設定は1段(1EV)ごとになっている。そのため、微妙な露出調整は絞りによって増減するのがダイヤル式カメラを使う者の心得とされる。
「Nikon F2」や「Nikon F4改造」で中間シャッタースピードが使えるものもあるが、それは極めて稀な存在。大多数はダイヤルクリックの中間に設定値は無い。そういう意味では、シャッターダイヤルというのは段階的なバリューと言える。
それに比べ、絞り環の場合は無段階である。設定しやすくするために敢えてクリックストップを入れているものの、どの位置で止めても使えるのがシャッターダイヤルとの決定的な違いである。

しかしそれにしても今どきのカメラならば、ダイヤルであっても電気接点が摺動する電子機器であるから、中間シャッターなどは簡単に盛り込むことが出来るはず。液晶表示カメラでは、中間シャッターなどは当たり前の機能として中途半端な数字を見せつけている。
ダイヤルに全てのシャッター表示を刻印せずとも、中間シャッター部分には軽いクリックストップを設けていれば事足りるように思うが、この前発売された「Nikon FM3A」でも中間シャッタースピードは実現されていなかった。

そんな時、ふと、中間シャッターは信頼に足るものなのかということが頭をよぎった。
問題は、シャッタースピードと絞りそれぞれの誤差である。いくら細かい目盛りを刻むにせよ、そのような細かい位置で本当に細かく設定出来ているのかという根本的なる問題がある。神経を尖らせて微妙な設定をしようが、それが忠実に反映されているとは限らない。
もちろん、液晶表示に電子的に設定されていたとしても、そしてクォーツで制御されていたとしても、実際に動作する機械部分にガタがあったり油が切れていたりすれば意味が無い。

よく「最高速シャッタースピードは使えないと思え」という話を聞く。最高速が表示上1/8000秒であったとしても、実測値は1/6000秒だったりするらしい。雑誌の新製品レポートなどを見ても、実用速度であろう1/125秒や1/250秒あたりでもあまり精度が出ていないものもあるようだ。

シャッターは高速であればあるほど、ほんの僅かなタイミングのズレが精度に大きく影響を与える。
それはまあ、当然と言えば当然。シャッタースピードというのは、原理的に言うと「シャッターが開いている時間」であるから、その数値が少なくなるということは、微少な時間を制御せねばならぬことである。シャッタースピードが速くなればなるほど、それだけ精度も要求される。
もし、シャッター側のメカニズム不具合によって常に0.0001秒の誤差があったと仮定すると、1/60秒でシャッターを切った場合はその誤差が0.6パーセントであるのに対し、1/1000秒では10パーセントにもなり、露出精度上とても無視出来ない。同じ誤差でも、シャッタースピードによって影響力がかなり変わるということである。

絞りの制御では、誤差の占める割合がそこまで極端に変わりはしない。だがシャッターでは、そのつど速度を発生させるために再現性が求められる。それには機械的な位置関係の精度はもちろんのこと、動作のタイミングなど多くの要素が絡む。しかし絞りでは機械的な位置関係に精度が出ていれば良い。
無論、シャッターが高速であるということは、メーカーでもそれだけの精度を確保して製品化しているに違いない。だが高感度フィルムを使うことにより高速シャッターを使用する頻度が増えるならば、誤差に触れる機会もまた増えることになろう。

電子式シャッターであれ機械式シャッターであれ、シャッター幕の駆動力はバネの機械力に他ならない。そのため、バネの疲労によって幕速が微妙に変化することも大いに考えられる。幕速が変わるということは、つまり高速側のシャッター速度が変わるということである。

シャッターの使用回数はもちろんのこと、シャッターをチャージした状態で保管しているのか、それともリリース(解放)した状態で保管しているのか。ワインダー内蔵カメラでは、シャッターを切ってもワインダーにより直ちにシャッターがチャージされるため、個体差はあまり無さそうではある。
「Nikon F5」のような高級カメラになると、シャッターの誤差をセンサーでモニタリングすることによって微調整を加え修正しているそうだ。
いずれにせよ、我輩の思っている以上に高速シャッターの誤差はデリケートな問題なのかも知れぬ。

元々、シャッタースピードの分母の数というのは丸めてあるので、理論値と比べないと意味は無いかも知れないが、少なくともカメラの制御が自分の思ったとおりに細かく行われていないということは確かである。要は、その誤差がバラつき無く一定していれば良いのだが・・・。

まあ、頭でいろいろ考えても始まらない。
そこで最近のカメラについてのシャッター精度について、どれくらいの誤差を含むのかを調べてみることにした。データの出所はカメラ雑誌「写真工業」の新製品レポートに記載されたシャッタースピード実測値である。各カメラ3回の計測を行っている。

理想値と実測値の差を求め、その差が理想値の何パーセントに相当するのかをグラフ化した。理想値をゼロ位置とし、それを挟んで上側が露出オーバー(シャッターが遅い)、下側が露出アンダー(シャッターが早い)ということを示している。


<A社製最新AF機>



機能の洗練された評判の良い機種であるが、高速側のシャッターが理想値よりも速くなっている。特に1/2000秒と1/4000秒では14パーセントも理想値を外れており無視出来ない。通常撮影では問題は表面化することは無いだろうが・・・。
 
<B社製AF機>



さすがにAF後発だけあって、社運を賭けた性能と言うべきか。ほとんどバラつきが無いのはさすが。
 
<C社製最新AF機>



最近は堅実な路線を行くようになったためか、比較的再現性のある結果となった。1/8000秒以外は充分信頼出来る。
 
<D社製最新MF機>



マニュアル撮影時には機械式となるシャッターのためか、高速・低速関係無くバラつきがある。特に、中速の1/250秒の誤差が26パーセントというのはどういうことか。隣の1/500秒との差を見ると、実に誤差30パーセントになる。
 
<E社製最新AF機>



シャッターも高速側に微少な誤差があるものの、中速以下では文句の付けようが無いほど理想値に近い。使いやすい形態を模索しているようだが、中身に関しては完成されているようだ。
(※計算が面倒なので最高速1/6000秒のグラフ化は省いた)
 
<F社製最新AF機>



今一つパッとしないメーカーなだけに1/8000秒を積みたかったのだろうが、いかんせん、1/8000秒だけがほとんど速度が出ていない。誤差は40パーセントと、ほぼ半段の露出オーバーとなる。それ以外はかなり理想値に近いだけに、この際1/8000秒搭載は見送るべきだった。


今回、シャッターに関する数字を表計算ソフトに入力し、誤差を自動計算させ、その結果をグラフ表示させた。やはり、視覚的に表現されると直感的で分かり易い。そして、我輩の予想通りのグラフになっていることが自分でも驚きだった。
やはり、シャッターが高速側になるにつれ、誤差が拡大されていく。

ただし、ここではカメラの機種名を公表しない。どのカメラが優れているか劣っているかということを論ずる意図は無く、あくまで我輩の予想が数字として裏付けられるかどうかを確かめたかった。
それに、数字については少し慎重になる必要がある。そのことについては次の雑文で触れようと思う。

まあいずれにせよ、予想以上にシャッターというものが理想値から外れやすいものだと理解した。これにより、中間シャッタースピードがあろうとも、それは気休めだという可能性がある。
露出微調整や段階露出のように、前後の露出を取る相対的な調節の撮影ならともかく、露出計算に基づくピンポイントな決め打ちや露出シフト、異なるカメラの併用などでは、中間シャッターなどは実質的意味が無いように思える。ましてや今回のように、中間シャッターに被るくらいに誤差のあるものを見てしまっては、そう考えるのも無理は無かろう。

心情的には、やはり1/2段や1/3段など微妙な露出調整にはシャッタースピードではなく絞りでやりたい。それも気休め程度だと言われそうだが、それで自分の気が済むならば。