2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
8.リンク
9.掲示板
10.アンケート
11.その他企画

12.カタログ Nikon
 F3 (F3H)
 FM3A
 FM2
 FM
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 FE10
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カメラ雑文

[306] 2001年10月03日(水)
「オイちゃん」

昨日の夜、ヨドバシカメラからの帰り、上野の丸井近くにあるホビーショップ「ヤマシロヤ」に寄った。ここは長らく工事中で、新装開店したばかりであった。店内が小綺麗になり、品揃えも増えた様子。
ふと見ると、1階の中央部に小さなショーケースがあり、ミニチュア復刻カメラとして話題の「SHARAN」が、本物のカメラ(中古品)と肩を並べるように陳列されていた。

「SHARAN」と言えばNikon Fのミニチュアを思い浮かべる。だがそのショーケースにはライカのレンジファインダーカメラとローライフレックスしか無かった。Nikon Fは生産終了か?
しかしミノックス判のカメラゆえ、我輩にとっては単なる興味の対象でしか無い。一目見ただけでそこを離れようとした。すると、我輩と同様にショーケースを覗いていたオイちゃんが声を掛けてきた。
「あのー、すいません。」

我輩はその声を無視した。前にも池袋の駅ビルのホビーショップで同じように声を掛けられたことがあったからだ。会社帰りのネクタイのため、ホビーショップの店員と間違えられたのである。
「おのれ、またしても間違えるヤツがいたか。我輩は店員などではないっ。」
我輩は自分が店員でないことを暗に示すために営業カバンが見えるように身体の位置を変え、気付かぬフリしてそのまま歩き出した。
「どうだ解ったか、我輩は単なる客の一人に過ぎぬ。」
しかしそのオイちゃんは懲りずに我輩に近付いてまた声を掛けた。
「ちょっと、すいません。」
さすがにこれを無視するのは不自然であった。仕方無くオイちゃんのほうを向き直り、「は?」と言ってみた。 見るとオイちゃんは、50代くらいで無精ヒゲを伸ばし、例えるならば松戸競輪場で見掛けそうな風体だった。

「あのー、これは何と読むんですか?」
オイちゃんの指さす先には「SHARAN」の文字。ああそれなら・・・、と思ったが、とっさに訊かれるとなぜか答が出てこない。
「シャ・・・、シャランか?」
その言葉に自信は無かった。
「はー、なるほど、シャラン・・・ね。」
オイちゃんはまたショーケースを覗き込んだ。ウーム、やはり店員と間違えておるのか・・・?

「これ小さいですねー!いいなあー。」
オイちゃんは再びこちらを向いた。明らかに我輩に話を振っている。
我輩は自分が店員でないことを示すため、敢えてタメ口で答えた。
「小さいけど、ミノックス判ちゅうてね、普通のフィルムじゃないんよ。」
「え、そうなんですかっ。へぇ〜。」
オイちゃんのリアクションが面白い。もしかして、このオイちゃんは最初から我輩が一般客だと知っていて話し掛けたのか。

我輩は警戒心の強いO型の性格ゆえ、いきなり話し掛けられると無愛想に対応する。だが、このオイちゃんはそんなこともお構い無しに我輩の言葉に大きく反応する。
例えば「このカメラは何ですか」と訊くので「ローライフレックス」と答えると、それに対して「へぇ〜ローライフレックスねぇー!」と感心するのだ。

オイちゃん、負けたよ。
我輩はしばらくそのオイちゃんの会話につきあうことにした。
オイちゃんはいろいろと質問をしてくる。
「この・・・えーっと、ローライフレックスってのが\38,000?」
しかしオイちゃんの視線は、明らかに比較用として並べられていた本物のローライのほうを向いていた。
「あ、いや、これは本物だから違うわ。こっちの小さいやつ。」
「え、なんで?こっちの大きいヤツじゃないの?」
オイちゃんは真剣に訊いてきた。我輩は苦笑した。
「ここはオモチャ屋やから、基本的にオモチャよ。モノホンは置いとらんよ。モノホンやったら40万くらいするわ。」
「おー、そっかー!神経がカメラのほうに集中してたから、カメラ屋にいる気分になってたわー、ハハハ!そりゃそうだ!」

「オイちゃん、カメラ好きなんか?」
ショーケースを覗き込むオイちゃんの横顔に訊いてみた。
「わたしゃねー、賭事や酒は一切やらんのですが、カメラだけは好きなんですわ。」
オイちゃんの目は輝いていた。松戸競輪場に似合うと思っていた雰囲気は、その時、不思議と消え去っていた。

憎めないオイちゃん。
我輩は他に見たいところもあったので、適当なところでオイちゃんに別れを告げた。
「イヤ、いろいろ訊いてスンマセンでした。」
オイちゃんは笑顔で我輩に頭を下げた。

オイちゃん、我輩を店員と間違えたわけでは無かった。