2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
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カメラ雑文

[191] 2000年12月13日(水)
「無常なり」

最近、かなり寒くなった。角度の浅い太陽光に、吐く息の白さが輝く。
いつものように通勤路を歩いていると、景色が妙にモノクロチックに感じる。よく見ると、それは落葉樹のせいだった。

最近までは街路樹のイチョウの葉が黄金色に染まっていたのだが、その日の朝は大量に地面に堆積しており、残された枝には黒っぽい枝がむき出しとなっていた。
段々と冬の色へと変わって行くようだった。

しばらく歩くと、ある倉庫の脇に1本の柿の木が見えた。黒い枝の先にたった2つ、朱色に染まった柿の実がぶら下がっている。周りのモノトーンの中で、ここだけがとても光っているのだ。
それは、我輩の子供の頃に枯れ草の中で見た、燃えるような色に熟したカラスウリの記憶を呼び起こした。

暗い色の中にある朱というのは、とても映えて見える。もしこれが青や緑であったなら、これほどまで輝いて見えはしない。
我輩は「この光景を、いつでも見ることが出来るように残しておきたい」と思った。写真を撮る動機として、実に純粋な気持ちに思えた。

しかし、週末を挟んだ数日後、その情景から「朱」は消えていた。


情景とは、動いていないようで、常に動いている。それは不可逆であり、その一瞬を逃すと、もう二度と同じ世界に戻ることは出来ない。「一期一会」と言えよう。

「一期一会」というのは、茶道では主に人間の出会いということについての教えだが、しかし「四季の表現」、「自然の表現」は、茶道にとっては非常に重要である。千利休が情景の中にも「一期一会」を見なかったはずはない。いや、そもそもこれこそが茶道の源流なのかも知れぬ。

同じように見えて、実は同じではない情景。観察力の鋭い利休は、そこに無常を感じたろう。
「行く川の流れは絶えずしてしかも元の水にあらず(方丈記より)」を、光で見、音に聴き、風に感じた。
その世界観が昇華し、人をもてなす心構えとして茶道が確立した。

不覚にも、我輩が茶道に触れていた大学時代には、そんなことなど思いつきもしなかった。しかし、今ならそれが解る。なぜなら、今までに多くの後悔をしてきたからだ。

この世にあるものは、どれも例外なく無常なり。
目の前にある情景は、今後再び出会うことは無い。今を撮れ。後悔無く生きよ。