[121] 2000年 8月22日(火)
「耐久性」
一般人の人間が所有する精密機器の中で、カメラほど耐久性を求められるようなものは無い。それは、「常に持ち歩きをするから」という理由もある。
他に携帯可能な精密機器と言えば、「ヘッドフォンステレオ」、「腕時計」、「携帯電話」、「ノートパソコン」か。
「ヘッドフォンステレオ」は、落下させたりして調子が悪くなることがある。しかし、「壊れたときが買い換えのとき」というような風潮があり、高い金を払って修理するよりも、同じ金で新品を買えば性能も向上する。そういう訳で、特に耐久性を求められることは無い。
「腕時計」は、サイズが小さく形状が単純なため、強度を上げやすい。また、開閉部も操作部も少ないために密閉構造の実現が比較的容易。そのため、元々壊れにくい。
「携帯電話」は、ヘッドフォンステレオよりも製品の回転が早く、壊れる前にラインナップが入れ替わる。また、機械的可動部が無く(バイブレーション機能は除く)、元々壊れにくい。
「ノートパソコン」は精密部品の塊であり、同時にデータの塊である。ちょっとしたことで大事なデータを失うことになる。さらに、機器の単価が20〜40万円と高価であり、使用者自身が取り扱いに気を付けている。そのため、元々大きな衝撃は受けない。
また、パソコンは従来から処理スピードや容量などに重点が置かれており、耐久性などは意識に上らないのが現状。
では、カメラではどうか。
カメラの場合、他の携帯機器と違うのは、「その場の映像を記録する」という役割を持っている点である。
他の機器では、故障すれば確かに困るのだが、その瞬間、その場に無ければ取り返しがつかないというものでもない。しかしカメラは、その場で機能しなければ、その瞬間の映像を逃してしまうことになる。失われた時は永久に戻らない。しかも、それがフィルムを現像して初めて判るような故障であれば深刻なことだ。大げさに言えば、「命を懸けて撮影したカットが、すべて無駄だった」ということにもなりかねない。
ビデオカメラやデジタルカメラは、同じ「カメラ」であるが故に、どちらも必要十分な耐久性を備えている。しかしそれらは、写っていないということがその場で判るため、銀塩カメラほど大げさな耐久性は求められないかも知れない。
また、テープやメモリなど、媒体の規格が短命であるため、カメラが長く使えてもあまり意味が無い。
その点、銀塩カメラというのは、他の製品とはケタ違いに壊れにくさが要求されている。まるで、原子力関連施設のような厳しさだ。
「プロカメラマンが極限の中で使うから」というのは、あくまで日本製カメラを信頼しているからに他ならない。もし耐久性がそこまで無ければ、そのような使い方はしないはずだ。
しかし我輩が考えるに、多分、カメラメーカーが最初に作ったカメラの耐久性に束縛されているのではないだろうか。当時は壊れる部分の少ないものであったため、まじめに作ったカメラであれば、そこそこの耐久性が備わっていたものと思う。
それ故、後継機種でも同様な耐久性を維持する必要があったのだろう。少しでも気を抜くと、「今度のカメラは壊れやすい」と言われてしまう。製品として、必要十分な耐久性を持っていたとしても、先代と比較されてはかなわない。
父親が偉大であるほど、その子供のプレッシャーは大きいということか。
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