[109] 2000年 8月 8日(火)
「日光写真か」
昔、子供の頃に買った雑誌の付録には、時々「日光写真」が付いていた。今でも日光写真があるのか知らないが、一応、簡単に説明する。
小さな黒いビニール袋に写真の印画紙に相当する紙が入っている。その紙を取り出し、光沢のある面を上にして、「鉄腕アトム」や「ドラえもん」などのマンガのヒーローが印刷されたビニールシートをその紙に重ね、太陽光にさらす。
しばらくしてビニールシートを取ると、光の当たった所が黒く変化し、紙にマンガのヒーローが転写されたものが得られる。
ただしこの日光写真、黒いビニール袋に戻して時間が経つと、元の白い紙に戻ってしまう。画像は固定出来ない。画像が消えてしまえば、また再利用が可能で、また別の画像を転写することが出来る。
写した画像を利用するというよりも、ただ単に、転写する過程そのものを楽しむためのものオモチャなのだ。
さて、以前CMで見たのだが、パソコン用プリンターで出力した写真は、10年しか保たないそうだ。
我輩が以前使っていた、はがきサイズの熱転写型プリンターは、1年保たずに退色した。これは保存環境が良くなかったためと思われるが、それにしても1年保たないというのはかなり「日光写真」に近い。しかしそうかと言って、再利用できるワケでもない。この点は日光写真に軍配が上がる。
日光写真にも劣るプリントとは、情けない・・・。
これは写真を出力したカラー画像に限らない。トナーを使ったモノクロレーザープリンタでもトナーの変質が起こる。ビニールシートなどにへばりついたトナーはよく見かけるが、ほんの数年であのようになるのだからどうしようもない。
デジタルデータを守るために、プリンターで出力しておけとよく言わているようだが・・・、日光写真にデータをバックアップするような行為は意味があるとは思えない。
銀塩写真の感材は、それに比べれば驚異的な寿命を誇る。
元々、銀塩写真の寿命はそれほど長くなかった。モノクロはそれなりに耐久性があるのだが、カラーの場合、イエロー、マゼンタ、シアンの3原色のうち1つでもバランスが崩れると全体の色調に影響する。
一般的に、熱に弱いのはシアンの色素であり、他の2色に比べて1/10程度しか耐性が無かった。シアンが退色すると、画像が赤っぽくなる。古い写真がセピア色というのは、この理由による。
1984年、コニカは「100年プリント」を登場させた。シアンの耐性を伸ばし、カラーバランスの崩れが無くなった。現在では、200年を越える耐久性を持つに至っている(耐久性の計測についてはアレニウス法による)。
200年というのは、かなりの長さだ。色のバランスが崩れない程度の長さであるから、画像そのものが消え去るためには、更に長い年月を必要とすることになろう。
電子画像は、現像を必要としないのが特長だと謳われているが、長期的な視野に立つと、やはり現像処理の伴う銀塩システムの助けが必要なのではないかと思う。
耐久性では銀塩の足下にも及ばないのであるから、データのプリントアウト処理は感光材を使った方が無理がないのでは? そのようなプリンターの開発は難しいかも知れないが、やろうと思わないから出来ないということもあろうかと思う。
いまどき「10年プリント」などと言っているようでは、デジタル業界も先が暗いな。
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