[021] 2000年 5月 1日(月)
「レンズの向こう側」
写真というのは、レンズを通した映像を感材に定着することだ。今さら言うことでもない。しかし、それを実感することはあまりないだろうと思う。
土曜日、葛西臨海公園へ赴いた。その日は、公園内にある水族園の入場無料日に当たり、多くの家族連れがいた。
その時たまたま通りかかった場所で、記念写真を撮る場面に遭遇した。カメラの角度から判断すると、きっと我輩が背景の中に収まっていることだろう。
その時にふと、思ったことがある。
いつか、実家に帰った時に、昔の写真を見る機会があった。色褪せた写真の中の人物や風景は、カメラのレンズを通った映像だ。
この写真に写っている者は、今、我輩に見られていることを知らぬ。そして今、我輩は記念写真のカメラのレンズを前にしたのだ。
シャッターは時間を切り取る。
「あのレンズの奥には、未来の者の目があり、こちらを見ている。そしてそれはまぎれもなく、たった今、この時を見ているのだ。」
そう思った瞬間、いつか見た写真の、色褪せた風景にパッと色が付いたような、そんな気がした。
どんなにプライベートな写真であろうとも、いつどんな形でどんな人間の目に触れるのかは予想できない。そう考えると、今構えているカメラのレンズは、我輩1人だけの目ではないことを感じさせるのだ。
「写真を撮る」という行為は、つまり、そういうことなのだ。
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