2000/04/05
OPEN

表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
8.リンク
9.掲示板
10.アンケート
11.その他企画

12.カタログ Nikon
 F3 (F3H)
 FM3A
 FM2
 FM
 FE2
 FE
 FA
 FG
 FM10
 FE10
 F4
 F-401X

Canon
 AE-1P
 AE-1
 newF-1

PENTAX
 K1000
 KX
 KM
 LX
 MX
 MZ-5
 MZ-3
 MZ-M

OLYMPUS
 OM-3Ti
 OM-4Ti
 OM-2000

CONTAX
 ST
 RTS III
 Aria
 RX
 S2

MINOLTA
 X-700
 XD

RICOH
 XR-7M II
 XR-8SUPER

カメラ雑文

[679] 2009年10月27日(火)
「蔵王のお釜(8)-1日目」


我輩は現在、千葉県内の町に在住しているが、この町に住み始めて11年となる。
生まれ育った土地を離れてこれまで4回ほど住む町を替えたのだが、持ち家を得たことで今住んでいる町が最後の土地となろう。

それにしても、引越した直後に感ずる新鮮な気持ちが、今思い返すととても懐かしい。
どんな町なのかを知るために、行き当たりばったりの散策から始めたものだ。散策した道の中には、これから何度も歩くことになる道や、逆に散策で歩いたのが最初で最後という道もあった。
ただとにかく、どんな道も新鮮だった。

そういう動機から、今年のゴールデンウィークで北海道へ行った際に、知らない土地で生活を始めた気分を味わってみたわけだ(参考:雑文「670」〜「677」)。
それはなかなか面白い体験で、擬似的にも引越した時と同じような気分が味わえた。
また機会があれば、同じようなことをしてみたい。

そんな時、恒例の蔵王行きを検討するタイミングとなった。
山へ行くには天気に恵まれることが大切で、週末に快晴となるタイミングが非常に重要である。もちろん、快晴であれば平日であっても休暇を取るという方法もあるが、やはり土日のほうが地方の高速道路料金が1,000円となるため、安月給のサラリーマンには土日以外の選択の余地は無いのだ。

蔵王へは、これまで火口湖「蔵王のお釜」へ訪れることを唯一の目的としていたため、特に宿泊することもなく毎回日帰りであった。例え宿泊したとしても、次の日にまた同じ行程を繰り返す意味は無いし、かと言って他の予定も無い。だとすれば、少し無理しても宿泊せずに早く帰宅したいと考える。

ただそうは言っても日帰りの場合、往復の運転時間は10時間にもなる。もし宿泊出来れば1日あたりの運転時間が半分に減らせるのだが・・・。
そこで考えたのが、「宿泊した翌日は、知らない町を散策しよう」という計画。
これならば、宿泊する意味があるというもの。

天気予報によれば、ちょうど日曜日の9月20日は快晴となるようだった。その翌日は祭日なので、泊まりには都合が良い。

問題は、どの町にするかという選定である。
高速道路出入り口の白石市や遠刈田温泉などは、これまで蔵王登山で何度も訪れているために、我輩にとっての新鮮さを失いつつある。そうなると、全く別の土地を探さねばならない。

想定するのは、一度も訪れたことが無く、散策のしがいのある規模の町。
何も無い小さな田舎では、住民に溶け込むことは無理があるし、ただ歩いてもそれこそハイキングでしかない。商店やショッピングセンターなどが普通にあるような町で、住民に紛れてスーパーで買い物したり町を歩いたり出来るところが良い。

最初に考えたのは仙台市だった。どこかでクルマを駐車し、折り畳み自転車で移動しようかと思った。
ただ、都市の規模が大き過ぎるか。色々と調べてみたが、駅近くでは駐車が困難であろうと思われた。クルマの置き場所に気を使うのは困る。

そこで他の町を探すことにしたのだが、平日に割ける調査時間が少なく、結局決まらぬまま前日の夜を迎えてしまった。
前日となれば、それこそ早く就寝せねばならぬ。
仕方が無い、とりあえず、車中泊するための「道の駅」をピックアップしておき、そこから近い町の中から当日決めることにした。

さて、クルマに積み込む荷物については下記の通り。
・布団一式
・折り畳み自転車(市内散策用)
・遮光カーテン(車中泊の車内目隠し用)
・ACインバータ(主に各種充電器用)
・登山用具一式
・撮影機材一式

撮影機材については、今回は高品位なハイビジョン撮影が可能である「Canon EOS-5D Mk2」があることから、これを使って撮影してみたい。
そういうわけで、まず最初に「EOS-5D Mk2」が決定した。

一方、登山ではいつもスチル撮影に関しては66判をメインとし、66判を補完する役割として35mm判を用いている。
しかしながら最初に決定した「EOS-5D Mk2」は、フルサイズのせいなのかレンズ共々図体がデカい。しかもビデオ撮影ならば三脚とビデオ用雲台は欠かせぬ。これに66判と35mm判のカメラを追加するとなれば、撮影機材はかなりのものとなる。

仕方が無いので、今回は一眼レフカメラの「BRONICA SQ-Ai」ではなく軽量レンジファインダーカメラ「New MAMIYA-6」を選んだ。
そして35mm判については、マルチスポット測光が可能な機種として「MINOLTA α-707si」か「OLYMPUS OM-4Ti」のどちらかということになるが、軽量コンパクトという条件を加えると、自ずと「OLYMPUS OM-4Ti」という結論に辿り着く。


蔵王行きの前の晩、いつものことだが、支度に時間を取られて寝るのが遅くなった。
寝るのが面倒になったので寝るのは諦め、そのまま出発した。
時間は、午前1時。

それにしても様子が変だ。この時間にしてはやけにクルマが多い。まるで昼間の高速道路のよう。
例年ならば、こんな夜中に走るクルマはトラックしかおらず、区間によっては我輩の前後にクルマがほとんどいない状態にもなり寂しささえ感じたものだが、今回は寂しさなど微塵も無い。
やはり、休日の地方高速道路1,000円の影響なのだろうか。

<午前2時にしてはやけにクルマが多い>
午前2時にしてはやけにクルマが多い
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 01:57

途中、休憩のためにパーキングエリアに入ろうとしたのだが、満車のために入れないではないか。こんな夜中にも関わらず誘導員も多数いて発光棒を振っている。参ったな・・・。

幾つかのパーキングエリアを過ぎた後、ようやく安達太良サービスエリアで停めることが出来た。それでも、本来は駐車スペースではない安全地帯のような場所に誘導されたくらいだ。
夜が明け始めたとは言え、この時間でここまで混むとは何事だ・・・。

<安達太良サービスエリア>
安達太良サービスエリア
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 05:31

寝ずに出発したこと、そして、ここまで休めなかったこともあり、ここでしばらく仮眠を取ることにした。
まあ、後ろの布団で寝るまでもあるまい。
ただしその場合、前席では布団がジャマになってリクライニング出来ないため、腕を組んで目をつぶるくらいの仮眠でしかない。

1時間後、すっかり明るくなったのでクルマを出発させた。
しばらく走っているとパーキングエリアが見えてきたりするが、どこも満車状態で入れる様子は無い。先ほど入れたのはラッキーだったのだ。

<どこも満車>
どこも満車
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 07:16

そんなこんなで、ようやく白石インターチェンジを降り、蔵王エコーラインを目指す。
時間は7時半。もうこの時間ではエコーラインの先にある有料の蔵王ハイラインへは無料通行出来ない。焦らず行くことにする。

改めて考えると、新しいクルマで蔵王に来たのは初めてだった。
エコーラインの九十九折(つづらおり)のヘアピンカーブが、以前のクルマよりもかなり安定しており、ついつい調子に乗ってスピードを上げてしまう。まるで、自分の運転が上手くなったかのような錯覚すら感ずる。
しかし途中でキャンピングカーに阻まれてペースを落とさざるを得なかったが、事故を防ぐ意味ではちょうど良かったろう。

蔵王ハイライン入り口で通行料520円を払い、残りの短い道を登り切って山頂に着いた。時間は8時40分になっていた。
駐車場は、レストハウスに近い順に第一駐車場、第二駐車場・・・とあるのだが、第一駐車場はほぼ満車で、辛うじて空いたところになんとか停めることが出来た。
驚いたことに、前回訪れた時には砂利だったが今回見るとキレイにアスファルト舗装されていた。

<第一駐車場>
第一駐車場
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 09:41

クルマを停めた後、ドアを開けると冷たい風が吹き込んだ。思ったよりもかなり寒い。周囲の観光客も、ビックリしたように「うわ、寒い!」と言っている。
それでも観光客たちの多くは、上着の用意をしてないせいか、あるいはすぐに戻ってくるつもりでいるためか、薄着のままで震えながら「蔵王のお釜」が見えるほうへ歩いて行く。

空を見上げると、霧のような雲(距離が近いので霧のように見える)が上空を覆い被さり、強風のためか速く流れていた。
さすがに我輩は、数時間を過ごすつもりでいるから、寒さに耐えられるような格好で行かねばならぬ。何しろ北海道では今年、夏山でありながらも7名の凍死者を出した事故があったばかり。寒さをナメてはならない。

そこで我輩は、保温性の高い部屋着をズボンの下に着込み、シャツも二重に着て、その上から防寒着を着た。暑くなればシャツを1枚ずつ脱げば良い。
着替えは、クルマの後部座席でカーテンを吊っておこなった。寝るには必要十分な広さではあるが、着替えには少し狭いため手間がかかる。
着替えの手間や、出発間際に放り込んだ荷物の整理などがあったせいで、いつの間にか1時間ほど経ってしまった。

その後、厚手の靴下を履いてトレッキングシューズに足を入れる。そして改めてクルマから出て、撮影機材を入れたザックを背負った。
それにしても、風が強く冷たい。襟元を詰めたが少し鼻水が出てくる。

おまけに、ズボンの内側に履いている部屋着ズボンがだんだん下がってくるのが気になって仕方が無い。そう言えば、部屋着ズボンのゴムが最近ゆるくなっていた。ただし外側に重ね履きしたズボンのおかげで、下に脱げ落ちることは無い。

午前10時、観光客と登山者を分ける柵をいつものように乗り越え、崖降りルートを順調に下る。

<柵を乗り越える>
柵を乗り越える
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 09:58

曇り空はいつの間にか払われて青空が出てきたが、風は相変わらず強く吹き付け、カメラのストラップも激しくはためく。

<強風でストラップがはためく>
強風でストラップがはためく
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 10:14

しかしその強風も、お釜のふもとまで降りると静かになった。
部屋着ズボンは、もうこの時点で限界まで下がっていた。落ち着かないし歩きにくかったが、崖を下る途中では対処も出来ずに苦労させられた。

途中、雨水で斜面が浸食されているところを見付けて興味深く眺めたりした。ちなみに、このような地形を地質学的には「ガリー浸食」と言うらしい。
そう言えば、最近、火星のクレーター内で水が流れた形跡が発見されたという画像を見たことがある。水が流れる前と流れた後の比較画像(4年を隔てた2枚の写真)だったが、静止画ながらもそこに"動き"を垣間見た。そして今、目の前にした風景も、雨水を集め流れ下る様子が目の前に蘇るかのように感ずる。

<雨水で浸食された斜面>
雨水で浸食された斜面
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 10:19

そこから少し歩くと、積層した火山灰が雨水に浸食されている場所もあり、そこではまるで等高線のように見えるのが面白い。
この水無川の川床に降り、積層した火山灰の層を詳細に見てみると、カチカチに固まった層もあれば、砂利の状態で指で摘めるものもあるということが分かった。そして、固い層のほうを石で叩いてみると、カコンカコンと軽い音がする。
そこでようやく気付いたのだが、この水無川はお釜から流れ出す「濁川」であった。いつも流れていたはずの濁川なのに、なぜ枯れているのか・・・?

<等高線のように見える浸食地形>
等高線のように見える浸食地形
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 10:41

少し上に上がって川下のほうを向くと、水の流れる音が聞こえる。少し高いところに上がると、水の流れも見える。
川筋が変わったのか、あるいは途中で伏流しているのか。しかし、他に川筋が見当たらないことから、やはり伏流しているのかと想像する。
それにしても、川下の流量は少なくなさそうに思うが、それほどの流量が伏流しているとすれば信じられない。

さて、お釜の縁へ登って湖面を覗いてみようと思う。
相変わらずフカフカしている白い地面の斜面を登り、お釜の縁へ到達した。ちょうど良い色に発色する時間帯のためか、とてもキレイな緑色の湖面が見えた。それと同時に、強風が我輩に吹き付ける。遮る物が何も無い、まさに吹きっ晒しの場所であった。

<吹きっ晒しのお釜の縁>
吹きっ晒しのお釜の縁
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 11:04

風は湖の側から吹き付けるため、湖面側へ落とされる危険性は無いだろうとは思うが、それでも縁のギリギリに立って強風に身体を揺らせていると恐怖感が襲う。
我輩は、そこで「EOS-5D Mk2」を三脚にセットし、湖面全体を右方向へパンして撮影することにした。

1回目、失敗。
やはり強風のため、しっかりと三脚を押さえ付けておかねば少しブレが出る。
2回目、そして3回目とやって、ようやく納得出来る動画が撮れたように思う。

その後、湖面に一番近付けるデルタ(三角州)側へ回り込んだ。
以前来た時と、湖岸線が全く違っている。詳細は帰宅してから画像を見比べねば分からないが、パッと見た目、湖岸線が湖側へ後退しているように思う。つまり、水位が低下しているようだ。

<デルタ(三角州)>
デルタ(三角州)
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 11:20

デルタを一通り散策した後、お釜に注ぐ複数の川のうち、恒常的に流れている1本の清流「五色川」に近付いた。
そこでは、五色川に浸食されている粘土層が露(あら)わになっているのが見えた。
この様子は以前にも見たが、今回はかなり広範囲に露出している。

<五色川に浸食されつつある粘土層>
五色川に浸食されつつある粘土層
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 11:50

粘土の層は、細かい粒子の火山灰が降り積もったものであろうから、ここだけでなく別の場所にもこのような層の続きがあるに違いない。
そして、粘土の層は不透水層であるから、お釜の水をたたえる働きとして重要な役割をしているのかも知れない。
お釜の水位はある一定以上にはならないということからすると、スリバチ状の粘土層の上端まで水位が達すると、そこから溢れた水が濁川に流れ込むのではないかと思うのだが。

さて、もうすぐ12時。そろそろ昼食にしようか。
前回は日清のカップヌードルを食べたのだが、今回は少し大きめのものを選ぼうと思い、コンビニエンスストアで本格的なとんこつラーメンを選んでみた。

カップラーメンに使う水を得るため、五色川を遡上していく。なるべく上流の水を汲んで湯を沸かしたい。
それにしても、もう9月中旬であるから、雪解けも終わっているはず。それでもなお五色川の水が流れているのは不思議に思う。植物が茂っている場所ならば保水力もあろうが、植生のほとんど無い岩場から五色川の水が湧き出ているのである。水源として、どこにそんな保水力があるのだろう? それはいずれ突き止めたい謎の1つである。

<五色川を流れる清流>
五色川を流れる清流
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 12:20

さて、前回とほぼ同じ場所で腰を下ろす。ここまで歩いてくるとさすがに暑い。防寒着を脱いで1枚目のシャツのボタンを外した。少し寒くなったが、汗を乾かすには強風が好都合。

キャンプ用ケトル(やかん)とアルコールバーナーを使って湯を沸かす準備をする。強風のため、岩で囲って風から守るようにした。
だが、持参した100円ライターの点きが悪く、どうやっても火花しか散らない。実は、元々点きの悪いライターだと知っていたのだが、火花さえアルコールに触れれば着火するだろうと思っていた。しかし、なかなかうまくいかない。
アルコールの炎というのはほとんど見えないため、着火時にヤケドを負う危険性がある。それでもなかなか火が点かないことで半ばヤケになり、危険を承知でバーナーに突っ込んでライターを擦ったところ、やっと点いてくれた。
炎は見えないが、強風のためにボオーっと音がして熱くなってきた。良い感じだ。

アルコールバーナーであるから沸騰するまで少々時間がかかったが、それでもグラグラと力強く沸騰している(ただし、高所のため若干沸騰温度は低いはず)。

<湯を沸かす>
湯を沸かす
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 12:43

早速、湯をラーメンのカップに注ぎ、時間を待った。
そしていよいよ食べるわけだが、食べ始めはそれなりに熱くて大変ではあったものの、強風のせいかみるみる温度が下がる。日清のカップヌードルよりも開口部が広いので、熱も風に奪われ易いのだろう。

肝心の味についてだが、確かに、本格的なとんこつらしき味はするのだが、思ったほど旨くない。我輩は庶民であるから、本格的に"とんこつ"を謳ったラーメンよりも、近所のラーメン屋で出るような無印ラーメンのほうが数倍旨いと感ずる。わざわざ"とんこつ"を名乗るというのは、あまりにとんこつということを意識し過ぎている(つまり、気取っている)ように感ずるのだ。

<本格とんこつラーメンを食す>
本格とんこつラーメンを食す
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 12:54

その点、「うまかっちゃん」のようなインスタントラーメンは、小さく"とんこつ風味"と気付かない程度にしか書かれておらず、味も素直で万人ウケするだろう。
次に来る時は「うまかっちゃん」にするか。

食後、しばらく座ったまま休憩した。
上部の外輪山には小さな人影が幾つも見える。恐らく向こうからはこちらは見えまい。お釜という巨大なものの陰にいる小さな人間など、どうやって気付くというのだ。

<外輪山の人影>
外輪山の人影
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 12:16

お釜のふもとに目を移すと、安齋徹の火山研究所跡が見えた。
これからお釜の最高峰五色岳へ登ろうと思うが、途中、火山研究所跡に寄ってみよう。そこは我輩にとって神社みたいなもので、この先の行程の安全を祈るのだ。

五色岳は、お釜の湖面が一望出来る一方、お釜の背面も見渡すことが出来るとても眺めの良い場所である。そこへ登ってみたところ、我輩がクルマで登ってきたエコーラインが見えた。クルマの行列が壮観だった。
ところが良く見ると、クルマの行列は微動だにしていない。まさに渋滞であった。

<エコーラインの渋滞>
エコーラインの渋滞
エコーラインの渋滞
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 14:03

山頂の駐車場がもし第一駐車場だけでなく全てが満車状態であるならば、この渋滞はかなり深刻であろうと思われた。何しろ、駐車場から1台出ないことには、待っている1台が入れない。道を通過するだけの渋滞とはその点が大きく異なる。
山の上から見下ろしているだけに、渋滞が遥か向こうまで続いているのが良く判る。最後尾のクルマが駐車場に入れるのは、いったいいつになることだろう・・・。

それにしても、自家用車でここまで来るようになって、時間的余裕がとても嬉しい。
新幹線とバスで来ていた頃は、まさに時間との戦いだった。最終バスに乗り遅れたこともあった(参考:雑文444「蔵王のお釜(1)」)。
しかし今、自分でクルマを運転し、好きな時に訪れ、好きな時に家路につくことが出来る。そして今回も、気が済むまでここに居よう。

そんなことを思っていると、やけに自分の影が長くなっていることに気付いた。
「マズイ、いくら時間に融通が利くとは言え、この季節は陽が短かかったことを忘れていた。」
我輩はピッチを上げることにした。

今回は、これまで歩いたことのないルートを辿った。お釜脇にある大きな水無川の源流である2つの火口跡の縁を歩き、そのままふもとまで降りる。
途中、興味深いものを見付けた。
まるで、泥に小石が飛び込んだような状態がそのまま固まったような岩石があった。これは、積層されていた火山灰の層の中にあったと思われる。詳しいことは分からないが、これがかつて泥であったことは確かだろう。

<かつて泥だったのか>
かつて泥だったのか
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 14:20

その後、水無川を降りて巨大な滝壺のところまでやってきた。
その巨大さは、写真ではどうしても伝えることは出来ない。広角で撮れば小さく見えるし、かといってズームアップすれば全体が見えなくなる。
上から顔を覗かせて見下ろすと、あまりの崖に足がすくむが、まるで神殿のホールのような荘厳な雰囲気が良い。

<滝壺の神殿ホール>
滝壺の神殿ホール
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 14:46

ふと見ると、積層された火山灰の層が、1箇所(と言っても巨大なものだが)だけ縦に向いているものがあった。浸食か何かの理由で、その岩石が崩れ落ちたのだろうか。もしそれが本当だとすれば、その時どんな大音響が響いたのだろう。聞いてみたかった。

<火山灰層の向きが異なる>
火山灰層の向きが異なる
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 14:56

ふと上空から、何かエンジンの唸る音が聞こえてきた。見ると、ライトプレーン(1人乗り軽飛行機)が2機、お釜上空に現れ、旋回していた。そして我輩の上空を通り過ぎたが、我輩のことに気付いただろうか? 相対高度は100メートルくらいあったように思うが。

<ライトプレーン>
ライトプレーン
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 15:01

お釜のふもとへ降り、白い斜面を歩いた。
目の前には、いつも帰りに寄る1本の木が見えた。まさに、外輪山の影に隠れようとしている間際だった。
その木は、いつものように元気そうに見えた。

<影に隠れようとしている1本の木>
影に隠れようとしている1本の木
影に隠れようとしている1本の木
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 15:06-15:08

我輩はしばらくの間、懐かしげにその木の幹を触ったりしていたが、やがて外輪山の影も被さってきたので、その木に別れを言った。

来た道を戻り、崖を登る。
振り返ると、つい1時間前に上から見下ろしていた滝壺の神殿ホールが一望出来た。

<滝壺の神殿ホール>
滝壺の神殿ホール
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 15:31

ふと足下を見ると、我輩の影がとても長く伸びていた。これならば、上から見ている者も我輩の存在に気付くのではないかと思うのだが。

<長く伸びた影>
長く伸びた影
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 15:37

帰りの登りはそれなりにキツかったが、クルマで来たのだから焦る必要は無い。それに、今回は車中泊をするのだから気が楽。
最初に乗り越えた柵をまた越え、観光客に混じって歩いた。やはり最後の登りは足が重い。
ようやくレストハウスに到達した頃には午後4時になっていた。

レストハウスでソフトクリームでも食べようかと思ったが、残念なことにこの時間では閉まっていた。
仕方なくそのままクルマに戻って身体を休めた。
このような場面でクルマという母艦があるというのは、「休憩所」、「補給源」、「移動手段」という点で非常に有り難い。

それにしても、シャツは汗で濡れていた。少し窓を開けると、強風によって汗もみるみるうちに乾いていく。
我輩は車内で着替え、部屋着になって30分くらい布団に横になった。こんな場所で、自分の布団で寝られるとは何と言う極楽か。

<布団を敷いた車内>
布団を敷いた車内
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 16:55

ただ、トイレに行きたくなったのでそんなにゆっくりもしていられない。何しろ、トイレは閉店したレストハウス内にあるのだ。
我輩はクルマを発車させ、下山を開始した。もう、スモールライトを点けるべき明るさであった。

遠刈田温泉へ着いたのは、午後6時半頃。もう真っ暗であった。
ここで銭湯に入るか。
以前ここで入浴した時の施設は無くなっており、代わりに新しい施設が出来ていた。ちょうど、以前駐車場だった場所に建っている。
入浴料は300円とかなり安い。

<遠刈田温泉の銭湯>
遠刈田温泉の銭湯
[Canon EOS 5D Mark2/24-105mm] 2009/09/20 19:09

入浴後、近くのコンビニエンスストアに行って弁当などを買おうかと思ったが、コンビニエンスストアの外見にしては普通の商店という品揃えのため弁当は買えず、そこから2km離れた別のコンビニエンスストアで弁当を買ってその場で食べた。
ちなみに、明日の朝食もそこで調達しておいた。

さて、今夜の宿泊地だが、30kmほどと少しばかり離れているがダム湖のほとりにある「道の駅七ヶ宿」にしようと思う。

コンビニエンスストアを出発して遠刈田温泉方面に戻り、そこから街灯など全く無い道をひたすら走った。
四つ角にさしかかると一旦停止するのだが、ライトの当たらない左右は真っ暗で何も見えず、安全確認が出来ない。もし無灯火の自転車が横から突っ込んできたら、ぶつかるまで気付くまい。

当初から前後に全くクルマが居ない寂しい道だったが、進むにつれ民家も見えなくなり、道の両側に木々が生い茂るだけとなった。こんなところ、昼間であっても自転車や徒歩では通りたくない。

遠刈田温泉を出てから40分経ち、ようやくダム湖に沿った道に出た。そして幾つか橋を渡り、ようやく「道の駅七ヶ宿」に到着。
駐車スペースは小さく、車中泊と思われるクルマたちが1つおきに駐車している。我輩はグルリと回り、適当な場所にクルマを停めた。

さっそく車内で遮光カーテンを吊り、道の駅のトイレで歯を磨いて寝床に入った。
自宅寝室で使っているいつもの布団であるから、寝床に入れば自宅に帰ったような気分になれる。
酸欠しないよう、窓はほんの少しだけ開けたが、寒さは思ったほどでもない。
たまに車の出入りする音やドアの開閉の音が聞こえてくるが、登山の疲れもあり、いつの間にか眠りに就いた。

戻る