2000/04/05
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表紙

1.主旨と説明
2.用語集
3.基本操作法
4.我輩所有機
5.カメラ雑文
6.写真置き場
7.テーマ別写真
8.リンク
9.掲示板
10.アンケート
11.その他企画

12.カタログ Nikon
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カメラ雑文

[654] 2009年03月07日(土)
「目的を失う妥協ほど無意味なものはない」


幹線道路沿いによく見掛ける激安中古車の展示。見ると、10〜20万円程度の値段が付いていたりする。
クルマというのは、新車でも価格帯は様々だが、中古車も含めるとなれば価格の幅はかなりのものとなる。限られた家計の中からクルマの費用を工面するには、価格帯を絞り、そこから候補を決めるのが普通であろう。

<安い中古車が並ぶ>
安い中古車が並ぶ

また価格の次に、使い勝手も大きな選択項目となる。
最近では、大人数が乗れて天井も高いミニバンが大人気。子供を持つ家族にとって、もはやミニバンは生活必需品とまで言われるほど。スライドドアのピラーを廃して開口部を広くしたものもあり、子供を抱えて乗り降りもし易いと宣伝されている。

<子供を持つ家族には生活必需品のミニバン>
子供を持つ家族には生活必需品のミニバン

我輩は以前、島根県での田舎暮らしや子供の乳児期など、クルマが最も必要とされる時期でも徒歩と自転車だけで過ごしてきた。
そういう妙な自信だけはあったので、これから先もずっとクルマ無しで生きていけると思った。

ところがそんな我輩が4年ほど前に、こともあろうに本物のクルマを買ってしまった。
購入動機としては登山撮影のためであるが、中古車と言えども車体価格が88万円。もしそれだけの金をカメラ関係に注ぎ込んだならば、かなり裕福な写真ライフを送ることが出来たろうに。

そもそも、探せばもっと安いクルマもあったはず。
しかし我輩は、モノを買う際には値段よりもまず目的を考える。
今まではクルマを必要とする目的が無かったからこそクルマを買わなかったのであり、目的が出来てしまえば買うことになる。そしてその目的を満たすクルマとして、高速道路での長距離ドライブに適した高速安定性と、ペーパードライバーだった我輩にも運転し易い特性が必要だった。

そこで選んだのが「メルセデスベンツW202/C200」。
高速での安定性は言うに及ばず、ペダルやステアリングなど各操作部はかなり重いものの初心者にとってこれほど挙動が素直で分かり易いクルマも無い。
維持費の問題もあったが、維持出来なくなればその時点で手放せば済む話。何も問題は無い。

<88万円のメルセデスベンツW202/C200>
88万円のメルセデスベンツW202/C200
[Nikon D200/18-70mm] 2008/01/20

その後、このクルマは特に事故も無く活躍してくれた。
排気量2,000ccであるから自動車税も並、故障の少ないモデルを選んだだけあって車検も11万円で済み、維持費は予想をはるかに下回った。

またこのクルマのおかげで運転技量向上にも役立ち、職場では営業業務で社用車を運転し納品作業が出来るまでになったわけで、金では買えぬものまで手に入ったことになる。もし同じ金額をカメラのほうに費やしたとしたら、果たしてここまで得るものがあっただろうか(いや無い=反語)。

<我輩の運転する営業車たち>
我輩の運転する営業車たち

また、言うまでも無く撮影に関してもクルマの存在は非常に大きく、「移動手段」としてだけでなく、「物資補給基地」や「仮眠室」としての役割を果たした。これは、新幹線+バスの利用ではまかなえぬ役割であるため、単純にそれらのコストとの比較は意味が無い。

さて、最初のクルマを買って3年後(今から1年前)、我輩はクルマを買い換えることを決意した。
直接の動機としては、雑文581「夏の帰省2006(その2)」の<7日目>で書いたように、高速道路登り坂での失速が問題だったからだ。やはり20世紀の旧い2,000cc級のクルマでは、3名乗車プラス目一杯の荷物は文字通り"荷が重い"。
そこで思い切って、21世紀の車に買い替えようかと考えた。

狙うは新車であるが、メルセデスベンツの新車などとても手が届かない。
そうなると国産車かと思ったりもするが、しかし家族を乗せることも考えると、安全性の面でなかなか国産車を選ぶ気になれぬ。特に、軽自動車や重心が高く横転し易いミニバンなどもってのほか。ドア開口部も広ければ、側面衝突で致命傷を負うのが目に見えている。

<側面衝突を受けたクルマ>
側面衝突を受けたクルマ
[Nikon COOLPIX P5100] 2008/10/22
側面衝突を受けたクルマ
[RICOH GR-D] 2006/11/02

我輩にとってのクルマとは、「人を安全に運ぶ」ということが第一目的。その目的を妨(さまた)げるのであれば、どんな豪華な装備や便利な機能、そしてコストパフォーマンスなども必要無い。
目的を追い求めた結果として手の届く範囲に条件に合うものが無ければ、単純に買わないだけである。クルマが我輩にとって生活必需品ではないのだから、妥協して無理に買う必要など全く無い。

やはり安全性を求めると、どうしてもメルセデスベンツのセダンに行き着く。

国産車を貶(けな)すつもりは無いが、国産車には国産車の事情というものがある。
いくら国産車メーカーが安全性を高めたクルマを作ろうと思ったとしても、消費者がそれを求めていない。日本では制限速度が低いためか、安全性よりも消費者に訴求し易い「値段に比例した豪華さ」や「使い勝手・便利さ」が要求される。
目に見えない安全性に金をかけようとも、そのコストを吸収できるほどのブランド力は国産車メーカーには無い。いくら「安全性に全力を尽くした」と言われようとも、カローラが450万円もしたら誰も買わないだろう。

メルセデスベンツの場合、同クラス(同タイプ同排気量)の国産車と比べるとかなり割高でありながらも商品として成立している。内装や装備などが同クラスの日本車に劣り、しかも高価であるにも関わらず。
それは、見えない安全性に対するコストが含まれていても売れるくらいの大きなブランド力があるからだ。

そもそもメルセデスベンツでは企業の取り組みとして、ドイツのシュトゥットガルドから100km圏内で起こったベンツ車が関わる交通事故について、現地に調査チームを派遣して事故を分析し製品の安全向上に役立てている。またそれを支援するための法律も整備されている。
限定された条件で行うクラッシュテストをクリアするのが精一杯の国産メーカーとは考え方そのものが異なる。

その中でも、開発までに100台もの車体でクラッシュテストを実施し、メルセデス独自の安全基準を満たしたのが新型Cクラスの「W204」だった。

<メルセデスベンツW204/C200>
メルセデスベンツW204/C200
[RICOH GR-D] 2007/08/28

当初、「W204」には冷やかしで試乗してみたのだが、「走る」・「曲がる」・「止まる」という基本動作が素晴らしく、これで1,800ccだというのだから驚く。
それに比べると社用車で乗っている日本車の動作がいかに頼りないかを改めて思い知らされた。

<W204試乗中>
W204試乗中

ただ、「W204」のデザインは国産車的で、従来のような貫禄が無いのが唯一の不満。とは言うものの、乗り換えを検討するならばこれしか思い付かない。

しかし、車体価格450万円。
前のクルマの5台分にも相当し、我輩の年収と同額というのが恐ろしい。無謀にも程があろう。
それでも安全性には代えられぬ。失った後でいくら悔やみ大金を積もうとも、失われた命は元には戻らない。

むろん、メルセデスベンツであればどんな事故であろうとも命が助かるというわけではないが(ダイアナ妃が事故死したクルマはメルセデスベンツだった)、だからと言って安全要求を下げて良い理由とはならない。

「結果的に対策が無駄となる可能性があるとしても最善は尽くすべき」というのが我輩の方針である。それが出来なければ、クルマを買うのは間違っている。だからこそ我輩は、最初のクルマに乗るまでは15年もの間ペーパードライバーだったのだ。
「W204」が買えるか買えぬか、問題はその1点に尽きる。他車種を考慮する余地は無い。

そういうわけで、450万円の「メルセデスベンツW204/C200」買う方向で努力することにした。となれば、行うは金策である。
「W204」は新型車のため、当時はまだ中古車もほとんど出ておらず、あったとしても新車との価格差はあまり無い。もし450万円の金策が出来なければ、他に買うクルマも無く、乗り換えそのものを諦めねばならない。

我輩の勤務先がダイムラー社といくらかの関係があり、過去にメルセデスベンツの社員価格での販売実績もあるとのことで大きな期待を持ったが、現在は適用されないことが判明し、「やはり無理か」と一度は諦めた。

「全ては安全性確保のため。」
そういった我輩の信念による金策努力が実り、実家からの援助やその他により何とか現金で買えることになった。まさに奇跡としか言いようが無い。カメラ機材名目であったならば、たとえ20万円ですら援助や借金は無理だったろう。そういう意味で、強い目的は自分だけでなく他の人間をも動かすと実感した。

ただ、それでも貯金を大きく切り崩すことは避けられず、住宅ローンを抱えながらクルマを維持していくことについては不安はある。
しかしとりあえず3年間は故障についての無料保証があるため、少なくともそこまでは維持出来るだろう。排気量1,800ccであるから、税金についてはこれまでと変わりない。
保証の切れる3年以降の維持についてはどうなるかは分からないが、以前と同じように、維持出来るところまで維持し、ダメならその時点でペーパードライバーに戻れば良い。

ちなみに、パッとしないデザインについては、せめてボディ色と内装色を我輩の好きな赤茶系(参考:雑文639「QP CARD」)としようと思う。同じ価格帯の国産車と比べてチープな内装も、ベージュ色にすれば少しは上品に見えるかも知れぬ。
自分好みの仕様に出来るのが新車を選ぶメリットの1つ。

他のオプションとしては、運転を支援するための前後バンパーに付ける接近警戒センサー(パークトロニック)、登山で車内泊を可能にするトランクスルー仕様とした。そのために納期が3ヶ月後となったのは仕方無い。

乗り始めて約8ヶ月。九州帰省、赤城山登山、吾妻山登山などに使ったが、高速道路での加速も申し分無く、山での九十九折り(つづらおり)の連続ヘアピンカーブでも安定した走りはさすがに21世紀のセダンと感じさせる。

<納車されたW204>
納車されたW204
[Nikon D200/18-70mm] 2008/07/13
納車されたW204
※窓は画像加工による切り抜き [Nikon D200/18-70mm] 2008/11/08

以前レンタカーで乗った「ワゴンR」では、もっと緩いカーブを曲がった時でさえ大きくロールし車載カメラも吹っ飛んだ。それと比べるとまさに雲泥の差。前の車「W202」と比べても明らかにカーブに強く、山行きではかなり重宝する。

安全性については、事故を起こさぬ限り実感は出来ないが、これは「メルセデスベンツ」のブランドを信ずるしか無い。
ただ、事故を防ぐための性能として、フルブレーキ動作をJAFの講習会で試してみたが、その結果、このクルマには命を預けられると確信した。

<JAFでの片輪低μ路フルブレーキテスト>
JAFでの片輪低μ路フルブレーキテスト
JAFでの片輪低μ路フルブレーキテスト
[Nikon D200/18-70mm] 2008/09/14

高価な450万円ではあったが、クルマを買うなら必要な450万円だった。
買うことだけが目的化してしまうと、金が足りない場合は妥協したものを買わざるを得なくなってしまう。
しかし本来求めるべき目的を考えるならば、妥協せずに金策努力し、もし金策に失敗したならば無理に買うべきではない。
生活必需品ではないのだから。

ちなみに、同じことはカメラでも言えるはず。
カメラもまた、我輩にとって生活必需品ではない。それで生計を立てているわけでもない。
だからカメラなど買わずとも、生きるためには何の不自由も無い。経済的に買えないのであれば買わなければ良いだけの話。
だがもし買うのであれば、その時は自分の要求スペックを完全に満たす最高のカメラを買うべきであろう。

我輩の場合、フルサイズデジタル一眼レフカメラが死ぬほど欲しいのだが、Nikonには要求スペックを満たす製品は現状存在しない。妥協して「Nikon D700」に手が出そうになるが、目的を果たせぬ意味の無い買い物となるのが分かっているため必死に我慢しているところ。

目的を失う妥協ほど無意味なものはない。